水酸化Alは、INCI名 Aluminum Hydroxide、医薬部外品表示名称「水酸化アルミニウム」、化学式 Al(OH)3 の白い無機粉体で、アルミニウムの水酸化物にあたる(出典: Cosmetic-Info.jp / 医薬部外品の成分表示名称リスト)。化粧品の中で単独の主役になることは少なく、多くは酸化チタンなどの粉体の表面を覆う「表面処理剤」として、原料の段階で粉体と一体になって入る。この記事の見どころは2つある。1つ目は仕事の中身で、成分表で同じ「白い粉」に見えても、酸化チタンが「白くする」、イライトが「吸う」のに対し、水酸化Alは「覆う」側を担う。2つ目はアルミニウムへの不安の整理で、「アルミニウム=体に悪い?」「制汗剤のアルミと同じ?」という疑問に、米国のCIRとEUのSCCSという2つの評価機関の結論を、対象と条件つきで並べて答える。
1. 水酸化Alの基本
1.1 何の成分か
化粧品表示名称「水酸化Al」の定義は、「本品は、アルミニウム(Al)の水酸化物であり、次の化学式で表される。」とされ、CAS番号は1333-84-2と21645-51-2の2つが併記されている(出典: Cosmetic-Info.jp jcln)。1999年の化粧品の成分表示名称リストNo.1から収載された古い表示名称で、全成分表示が始まる前の旧種別許可成分名称「水酸化アルミニウム」を引き継いでいる。
医薬部外品では表示名称が「水酸化アルミニウム」(簡略名 水酸化Al)で、医薬部外品原料規格2021(外原規)は「本品を乾燥したものは,定量するとき,水酸化アルミニウム〔Al(OH)3:78.00〕98.0%以上を含む.」と定め、性状を「白色の粉末で,においはない.」とする(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版 / 医薬部外品原料規格2021)。水にはほとんど溶けない。CIRの報告書も、化粧品のアルミナと水酸化アルミニウムを「practically insoluble(ほぼ水に溶けない)」と書いている(出典: CIR 2014)。
アルミニウムを含む成分は成分表に何種類も出てくるため、名前の対応を先に整理しておく。
| 呼び名 | 物質 | 主な使われ方 | 本成分との関係 |
|---|---|---|---|
| 水酸化Al(本成分) | 水酸化アルミニウム Al(OH)3 | 表面処理剤・不透明化剤 | ― |
| オキシ水酸化Al | INCI Aluminum Hydroxide Oxide | 化粧品表示名称(2020年収載) | 別の表示名称 |
| アルミナ | 酸化アルミニウム Al2O3(水酸化アルミニウムを脱水したもの) | 研磨・吸着・増量など | 別物質 |
| クロルヒドロキシアルミニウム(化粧品表示はクロルヒドロキシAl) | 水に溶けるアルミニウムの塩基性塩化物 | 制汗剤の有効成分 | 別成分 |
| 焼ミョウバン | 硫酸アルミニウムカリウム | 収れん・デオドラント | 別成分 |
| 乾燥水酸化アルミニウムゲル | 日本薬局方の医薬品(酸化アルミニウム50.0%以上) | 制酸剤(胃薬) | 別規格の医薬品 |
(出典: Cosmetic-Info.jp jcln / CIR 2014 / 日本薬局方名称データベース / 各成分記事)
とくに下の3つは、どれも「アルミニウム入り」だが働きも規格も違う。制汗剤のクロルヒドロキシAlは水に溶けるアルミニウム塩で、汗の出口でゲルをつくって汗を抑える。水酸化Alは溶けない粉体として処方の中で形を保って働く。医薬品の乾燥水酸化アルミニウムゲルは、日本薬局方で「本品は定量するとき,酸化アルミニウム(Al2O3:101.96) 50.0%以上を含む.」と、酸化アルミニウム換算の含量で定義される医薬品で(出典: 日本薬局方名称データベース)、外原規の水酸化アルミニウム(乾燥物で Al(OH)3 98.0%以上)とは規格の立て方が別になる。同じアルミニウムの水酸化物系の原料ではあるが、同じ成分として読まないのが正確な扱いにあたる。
1.2 どんな製品に配合されるか
水酸化Alの配合目的は、表示名称の側で「不透明化剤、皮膚保護剤」の2つが挙げられている(出典: Cosmetic-Info.jp jcln)。EUの化粧品成分データベースCosIngはもう少し幅広く、不透明化・皮膚保護・粘度調整・保湿・エモリエントを挙げる(出典: CosIng)。CIRの報告書の定義表も不透明化剤・皮膚保護剤とする(出典: CIR 2014)。
ただし成分表で実際に出会う水酸化Alの多くは、配合目的の一覧には出てこない「表面処理」の顔で入っている。Cosmetic-Info.jp の原料データベースで表示名称に水酸化Alを含む原料は41件あり、その多くが酸化チタン系の表面処理粉体や分散体だった(出典: Cosmetic-Info.jp 原料検索)。原料メーカーの製品一覧を見ると、組み合わせがよく分かる。
| 製造元・原料 | 化粧品表示名称 | 組成(原料中の%) |
|---|---|---|
| 堺化学工業 STR-100A-LP | 酸化チタン、含水シリカ、水酸化Al、ハイドロゲンジメチコン | 84/8/4/4 |
| 堺化学工業 STR-100C-LP | 酸化チタン、水酸化Al、ハイドロゲンジメチコン | 89/7/4 |
| 堺化学工業 STR-100C-LF | 酸化チタン、水酸化Al、ステアリン酸 | 84/9/7 |
| テイカ MT-100TV | 酸化チタンを水酸化Al・ステアリン酸で表面処理(平均一次粒子径15nm) | 非公表 |
(出典: 堺化学工業 化粧品材料頁・化粧品原料カタログ / テイカ 微粒子酸化チタン製品頁・MTシリーズ資料)
表から読み取れるのは2つある。1つ目は、水酸化Alが原料の中で数%〜1割弱の「脇役」だということ。2つ目は、単独でなく、ステアリン酸・ハイドロゲンジメチコン・含水シリカといった別の処理剤と組み合わせて使われること。化粧品の成分表では、こうした表面処理原料は構成成分をばらして並べて書くため、「酸化チタン」「水酸化Al」「ステアリン酸」が別々の成分として表示される。テイカは製品頁で、表中の「Al」は「その元素の酸化物及び水酸化物を意味する」と注記している(出典: テイカ 用途別製品仕様一覧)。
医薬の分野でも同じ化合物名が使われる。CIRの報告書は、米国で水酸化アルミニウムがOTC医薬品(制酸薬、濃度0.15〜5%の皮膚保護剤の有効成分)や一部のワクチンのアジュバントに使われることを記載している(出典: CIR 2014)。これは米国の医薬品の話で、日本の化粧品の水酸化Alに効能があるという意味ではない。
ここで本記事の中核データにあたるのが、DappNotes の自社商品マスターの集計になる。全132製品(スキンケア54・ヘアケア78)を機械集計すると、水酸化Alを含むのは2製品だった(出典: DappNotes 商品マスター集計)。
| 製品タイプ | 水酸化Alの順位 | 酸化チタンの順位 | 全成分数 |
|---|---|---|---|
| オールインワンUVジェル(洗い流さない・SPF50+) | 31位 | 36位 | 36 |
| 酵素洗顔料(洗い流す) | 20位 | 19位 | 24 |
(出典: DappNotes 商品マスター集計)
目立つのは、酸化チタンもまったく同じ2製品にだけ入っていることで、どちらか一方だけを含む製品は1つもない。ヘアケア78製品には両方とも0件だった。位置はどちらも成分表の中〜後半で、全成分表示は1%以下の成分を順不同で書いてよいため、位置から言えるのは「配合量は多くない側」までにあたる。この「そろって現れる」ことの読み方は §4.1 で扱う。
1.3 メンズ視点での見方
水酸化Alに出会うのは、日焼け止め・UVカットのジェルや下地、白さや不透明感を持たせた洗顔料など、酸化チタンが入る製品の成分表の中〜後半になる。自社集計の2製品も、男女を問わず使われるオールインワンUVジェルと洗顔料だった(出典: DappNotes 商品マスター集計)。
実用的な読み方は2つある。1つ目は、「水酸化Al」の3文字を見て制汗剤のアルミニウムを連想しないこと。制汗の有効成分は水に溶けて汗の出口をふさぐアルミニウム塩で、溶けない粉体の水酸化Alとは働きが別になる(出典: CIR 2014)。2つ目は、成分表に酸化チタンと水酸化Alが並んでいたら、「表面を覆った酸化チタン原料かもしれない」と推測できること。ただしこれはあくまで推測で、どの原料が使われているかは成分表示からは確定できない。
肌への作用を期待して水酸化Alの有無で製品を選ぶ意味は小さい。日焼け止めを選ぶなら、見るべきはSPF・PAの表示と、紫外線防止成分(酸化チタン・酸化亜鉛やメトキシケイヒ酸エチルヘキシルなどの紫外線吸収剤)の側にあたる。
2. 期待される働き・効果
2.1 メカニズム
水酸化Alの主な仕事は、酸化チタンの表面を「覆う」ことにある。なぜ覆う必要があるのかは、原料メーカーの説明から読み取れる。
- 光触媒としての働きを抑える: 酸化チタンは光を受けると粒子の表面が周りの成分に作用する働き(光触媒活性)をもつ。テイカは、アルミニウムを使わない新しい微粒子酸化チタンの資料の中で、従来は「光活性を抑制するには水酸化Al処理が必要」だったと説明し、自社の定番品 MT-100TV を「水酸化Al+ステアリン酸処理15nm微粒子酸化チタン」と紹介している(出典: テイカ MT-500CST 資料 2023)。堺化学工業も、超微粒子酸化チタンSTRシリーズについて「緻密な表面処理により表面活性抑制も実現」と書く(出典: 堺化学工業 化粧品材料頁)。
- 油になじませ、分散させやすくする: 水酸化Alの上にステアリン酸などの脂肪酸を重ねた処理品は、テイカの製品表で撥水性「有」とされ、イソステアリン酸を重ねた銘柄には「油相分散時の粘度が低い」という説明が付く(出典: テイカ 用途別製品仕様一覧)。製品表を見る限り、水酸化Alは脂肪酸やシリコーンと重ねて使われる組み合わせが目立つ。
規制の側にも、この「覆う」仕事が書き込まれている。EUの化粧品規則は、2016年の改正でナノ形態の酸化チタンを紫外線防止剤として認めた際、使える被覆剤として「Silica, Hydrated Silica, Alumina, Aluminium Hydroxide, Aluminium Stearate, Stearic Acid」など11種を挙げ、光触媒活性を未処理品の10%以下にすることを求めている(出典: Commission Regulation (EU) 2016/1143)。水酸化アルミニウムは、その許された被覆剤の1つとして名前が挙がる。
もう1つの仕事が、配合目的どおりの不透明化で、白い粉体として光を散乱させ、処方に不透明感を与える(出典: Cosmetic-Info.jp jcln)。ただし表面処理原料の中では原料の8〜9割を酸化チタンが占め(出典: 堺化学工業 化粧品原料カタログ)、白さや紫外線の散乱を担う主役は酸化チタンの側にあたる。
2.2 一般的な効能範囲
水酸化Alは日本では医薬部外品の有効成分ではなく、承認された効能はない。化粧品での仕事は、表示名称の配合目的どおり「不透明化剤、皮膚保護剤」の範囲と、原料の段階で担う表面処理の役割にとどまる(出典: Cosmetic-Info.jp jcln)。医薬部外品に配合される場合も、表示名称「水酸化アルミニウム」で入る添加成分(その他の成分)の扱いになる(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版)。
配合目的の「皮膚保護剤」は、成分の働きを分類した言葉で、製品に皮膚を保護する効能が認められているという意味ではない。米国では水酸化アルミニウムゲルがOTC医薬品の皮膚保護剤の有効成分として認められているが(出典: CIR 2014)、これは米国の医薬品制度の話で、日本の化粧品に入る少量の水酸化Alに同じ働きを読み込むことはできない。
言い換えると、水酸化Alが製品にもたらすのは、処方の中の粉体を扱いやすく安定させることと、見た目の不透明感で、肌そのものを変える働きではない。
2.3 限界・誤解されやすい点
誤解されやすい点は3つある。
1つ目は「成分表の水酸化Alは、単独で配合された成分」という読み方。自社集計の2製品のように酸化チタンと並んでいる場合、表面処理原料の構成成分として入っている可能性がある。ただし成分表示は原料の単位でなく成分の単位で書くため、水酸化Alが酸化チタンの表面処理から来たのか、別に加えられたのか、両方なのかは成分表からは判別できない。
2つ目は「水酸化Al=制汗成分」という読み方。制汗剤のアルミニウム塩は水に溶け、汗と反応して汗の出口に栓をつくることで働く(出典: CIR 2014 / SCCS/1613/19)。水酸化Alは水にほとんど溶けない粉体で、この働き方とは別物になる。成分表に水酸化Alがあっても、その製品に制汗の働きがあるとは読めない。
3つ目は「表面処理してあるから、酸化チタンの光触媒活性はゼロ」という読み方。原料メーカーが説明しているのは活性を「抑える」ことで、EUの規則もナノ形態の酸化チタンについて「未処理品の10%以下」という基準で書いている(出典: Commission Regulation (EU) 2016/1143)。どの程度抑えられているかは原料ごとの設計によるため、成分表から読み取ることはできない。
3. 安全性・注意点
3.1 既知の刺激性・アレルギー報告
水酸化Alの皮膚刺激性について、CIRの2014年の最終報告書は、10%の水酸化アルミニウムがマウス・ウサギ・ブタで皮膚刺激性を示さなかったとまとめている(出典: CIR 2014)。そのうえで、アルミナと水酸化アルミニウムはほぼ水に溶けず皮膚刺激性もないため、経皮浸透や目のまわりへの使用に懸念はない、と討議で述べる。体内動態の部では、水酸化アルミニウムは健康な人ではほぼ皮膚から吸収されない(essentially not absorbed dermally in healthy humans)と整理している。
品質規格の側では、外原規2021が水酸化アルミニウムに重金属20ppm以下・ヒ素4ppm以下・乾燥減量0.5%以下の純度規格を定めている(出典: 医薬部外品原料規格2021)。EUのCosIngでは化粧品規則上の制限はなく(出典: CosIng)、日本の化粧品基準でも配合禁止・配合制限の対象に名前はない(出典: 化粧品基準)。
合わない可能性がゼロの成分はないので、使用後に赤み・かゆみなどが出た場合は使用をやめる、という一般原則は水酸化Alにも当てはまる。ただ、成分表の中〜後半に入る少量の無機粉体が刺激の主な原因として名指しされる根拠は、本記事の調査範囲では見当たらない。
3.2 推奨配合量と過剰配合時のリスク
日本の化粧品基準に水酸化アルミニウムの配合上限はなく、EUでも成分としての濃度制限はない(出典: 化粧品基準 / CosIng)。使用実態の参考値としては、CIRの2013年の業界調査で、洗い流さない製品572品で最大10.1%(目のまわりの製品)、洗い流す製品6品で最大8.8%(口腔用品)、日焼け用製品6品で最大0.9%という数字がある(出典: CIR 2014)。表面処理原料の中の割合は、堺化学工業のSTRシリーズで4〜9%だった(出典: 堺化学工業 化粧品原料カタログ)。原料が製品全体のごく一部として入れば、製品に占める水酸化Alはさらに少なくなる。
アルミニウム全体の量については、EUのSCCSが化粧品の製品分類ごとにアルミニウムの上限値を示している(§3.3)。これは水酸化Alを含むすべてのアルミニウム化合物をアルミニウム換算で合算した考え方で、水酸化Al単独の上限ではない。
「過剰配合時のリスク」として実際に意味があるのは、成分の毒性より剤型の側になる。CIRは、スプレーや粉が舞う製品で吸い込む可能性について、粒子の95〜99%は肺の奥まで届く大きさではなく、偶発的な吸入が有意な曝露経路になるとは考えにくい、と整理している(出典: CIR 2014)。洗い流す洗顔料やジェルに入る少量の水酸化Alでは、この論点はほぼ関係しない。
3.3 「危険性」と言われる根拠と実態の整理
水酸化Alが不安視されるときの根拠は、おおむね「アルミニウム」という言葉から来ている。4つに分けて整理する。
① 「アルミニウムは肌から吸収されて体にたまる」という不安
この問いに正面から答えているのが、EUの消費者安全科学委員会(SCCS)の一連の意見になる。SCCSは2014年の意見で、皮膚からの吸収量のデータが足りず評価できないとしたうえで、業界に実使用条件でのヒト試験を求めた。その新しいデータをもとに2020年の最終意見(SCCS/1613/19)で、アルミニウム換算で非スプレーの制汗・デオドラント6.25%、スプレー10.60%、歯みがき2.65%、口紅0.77%まで安全と結論し、口紅は2021年の補遺(SCCS/1626/20)で14%に改めた(出典: SCCS/1613/19 / SCCS/1626/20)。同じ意見は、化粧品を毎日使うことによる全身曝露は、ほかの発生源からの体内負荷に大きく上乗せしない、とも述べる。
その後、評価の対象は制汗剤・口紅・歯みがき以外の製品分類にも広がった。2024年3月の最終意見(SCCS/1662/23)は、スプレーでない製品は製品分類ごとの上限値で、スプレー製品は10μm未満の粒子・液滴が全体の20%以下という条件で、アルミニウム化合物は安全と結論している。ただし同時に、化粧品と食事を合わせた総曝露は、最も曝露の多い層では安全域を超えうること(SCCS/1644/22の評価)、ナノ形態のアルミニウムはこの意見の対象外で別の評価が要ることを付記している(出典: SCCS/1662/23)。
読み方の注意は2つある。1つ目は、SCCSの意見は水酸化Al単独でなく、化粧品に使われるアルミニウム化合物全体をアルミニウム換算で扱っていること。2つ目は、上限値つき・条件つきの結論であること。「アルミニウムは無条件に安全」とも「化粧品のアルミニウムは危険」とも読まず、「製品分類ごとの量の範囲で安全、食事と合わせた総量には注意が促されている」と受け取るのが正確になる。
② 「制汗剤のアルミニウムと同じもの」という読み方
制汗剤の有効成分であるクロルヒドロキシAlなどは水に溶けるアルミニウム塩で、SCCSは、こうした塩が汗管の中で不溶性の水酸化アルミニウムのポリマーゲルの栓をつくり、一時的に汗を止めると説明している(出典: SCCS/1613/19)。つまり制汗剤では、溶けた塩が汗と反応して肌の上で水酸化物のゲルになる。一方、化粧品の水酸化Alは最初から水に溶けない粉体として配合され、表面処理原料では酸化チタンの表面を覆った状態で入る。同じ「アルミニウムの水酸化物」という言葉が出てきても、入り方も働きも別で、制汗剤の話をそのまま水酸化Alに当てはめることはできない(制汗の仕組みはクロルヒドロキシアルミニウムの記事を参照)。
③ 「胃薬の乾燥水酸化アルミニウムゲルと同じ成分」という読み方
乾燥水酸化アルミニウムゲルは、日本薬局方で酸化アルミニウム換算の含量(50.0%以上)で定義される医薬品で、制酸剤として胃・十二指腸潰瘍などに使われる(出典: 日本薬局方名称データベース / KEGG MEDICUS)。外原規の水酸化アルミニウム(乾燥物で Al(OH)3 98.0%以上)とは規格の立て方が別になる。米国のCIRは、化粧品用の水酸化アルミニウムは米国のOTC制酸薬に使われるものと化学的に同等と整理しているが(出典: CIR 2014)、これは米国の制度での比較で、日本の医薬品の規格と化粧品の原料規格を同一視する根拠にはならない。飲み薬として服用する医薬品の注意事項を、成分表の後半に入る少量の粉体にそのまま当てはめないことも大事になる。
④ 「アルツハイマー病や乳がんの原因になる」という俗説
CIRの報告書は討議の部で、科学文献には、アルツハイマー病や乳がんをアルミナ・水酸化アルミニウムの使用に結びつける妥当な証拠はない、と述べている(出典: CIR 2014)。SCCSも2020年の意見で既存の評価を引き、十分な調査の結果、アルミニウムとアルツハイマー病の間に因果関係はないと一般に受け止められていること、WHOの国際化学物質安全性計画(IPCS、1997年)が、アルミニウムの摂取増加がアルツハイマー病の原因である可能性は非常に低いと結論したことを整理している(出典: SCCS/1613/19)。そのうえでSCCSは、動物ではアルミニウムに神経毒性があることを認め、2014年の意見では「因果関係はまだ証明されていない」という書き方もしている。ここから言えるのは「評価機関の見解として、関連は確立していない」までで、それ以上の断定はしない。
本クラスタ3成分の公的評価の出方を並べると、ばらつきがよく分かる。
| 成分 | 主な公的評価の出方 |
|---|---|
| 酸化チタン | EU化粧品規則で紫外線防止剤として上限25%、ナノ形態には被覆剤・光触媒活性などの条件つき。国際機関の分類など詳細は酸化チタンの記事で |
| 水酸化Al(本成分) | CIRが2013年にアルミナとまとめて評価し安全と結論。SCCSはアルミニウム化合物全体を製品分類ごとの上限値で評価 |
| イライト | クレイ系の評価の対象に入るかを含め、イライトの記事で整理 |
(出典: Commission Regulation (EU) 2016/1143 / CIR 2014 / SCCS/1662/23)
「評価がない」ことと「危ない」ことは別で、「評価がある」ことも、何を対象にどんな条件で評価したかは成分ごとに違う。水酸化Alの場合、成分そのものの評価(CIR)と、アルミニウムという元素全体の評価(SCCS)の2層があり、この2つを分けて読むのがポイントになる。
4. 相性の良い・悪い成分
4.1 併用推奨
水酸化Alは、ほかの粉体と組み合わせてはじめて本来の仕事(覆う)をする成分で、その相手の代表が酸化チタンになる。
酸化チタンと水酸化Alは、自社マスターでは同じ2商品にだけそろって現れる(出典: DappNotes 商品マスター集計)。洗い流さないUVジェル1製品と洗顔料1製品で、どちらか一方だけを含む製品は132製品の中に1つもない。
原料メーカーからは、酸化チタンの表面を水酸化Al等で覆った原料が出ている。たとえば堺化学工業の「STR-100C-LF」は化粧品表示名称が「酸化チタン、水酸化Al、ステアリン酸」、「STR-100C-LP」は「酸化チタン、水酸化Al、ハイドロゲンジメチコン」で(出典: 堺化学工業 化粧品材料頁)、テイカの「MT-100TV」も水酸化Al・ステアリン酸で表面処理した微粒子酸化チタンとして紹介されている(出典: テイカ 用途別製品仕様一覧 / MTシリーズ資料)。製造元は、こうした処理の目的を「表面活性抑制」(堺化学工業)、「光活性を抑制する」(テイカ)と説明している。
ただし、各商品がどの原料を使っているかは成分表示からは分からない。全成分表示は1%以下の成分を順不同で書けるため、洗顔料で酸化チタン(19位)と水酸化Al(20位)が隣り合っていることも、同じ原料から来ている根拠にはならない。また洗顔料には9位にステアリン酸があるが、これは石けん(脂肪酸と水酸化Kの反応でできる洗浄成分)の原料として入っている量が主と考えられ、表面処理のステアリン酸と結びつけることはできない。ここから言えるのは「酸化チタンと水酸化Alがそろって現れ、そういう組み合わせの原料が市場にある」までになる。
表面処理の相方としては、ほかにステアリン酸・イソステアリン酸・含水シリカ・ハイドロゲンジメチコンなどがあり、原料メーカーの製品表では水酸化Alとこれらを重ねた組み合わせが並ぶ(出典: 堺化学工業 化粧品材料頁 / テイカ 用途別製品仕様一覧)。
4.2 併用注意
消費者が使う場面で、水酸化Alとほかの成分の組み合わせに注意が要るという公的な記述は、本記事の調査範囲では見当たらない。
処方をつくる側の話としては、原料メーカーが1つ注意点を挙げている。テイカは、水酸化Alで処理した微粒子酸化チタンについて、増粘剤のカルボマーと「一緒に使いたいけどゲル化してしまう」という課題を示し、試験では水酸化Al+ステアリン酸処理品を配合したカルボマー入りジェルの粘度が数日で大きく下がったと示している(出典: テイカ MT-500CST 資料 2023)。同社はその解決策として、アルミニウムを使わずに光活性を抑えた新しい原料を出している。これは処方設計の段階で解決される話で、店頭に並ぶ製品で消費者が気にする必要のある組み合わせではない。
4.3 類似成分
水酸化Alに近い成分は、本クラスタの「白くする・覆う・吸う」という粉体の仕事の軸と、「アルミニウムを含む成分」という軸の2つで並べると位置関係が分かりやすい。
| 成分 | 物質 | 製品の中での仕事 | 立ち位置 |
|---|---|---|---|
| 酸化チタン | 二酸化チタン | 白くする(白色顔料・紫外線散乱) | 水酸化Alに覆われる側の主役 |
| 水酸化Al(本成分) | 水酸化アルミニウム | 覆う(表面処理)・不透明化 | 単独の主役になることは少ない裏方 |
| イライト | 雲母に近い粘土鉱物 | 吸う(クレイ) | 洗顔料に入るもう1つのクレイ |
| クロルヒドロキシアルミニウム | 水に溶けるアルミニウム塩 | 制汗(有効成分) | 同じアルミニウム系でも働きが別 |
| 焼ミョウバン | 硫酸アルミニウムカリウム | 収れん・デオドラント | アルミニウムを含む別成分 |
(出典: Cosmetic-Info.jp jcln / CIR 2014 / 各成分記事)
同じ「覆う」仕事を担う成分としては、表面処理原料で水酸化Alと組み合わされる含水シリカやシリカ系の処理、ステアリン酸・イソステアリン酸などの脂肪酸がある(出典: 堺化学工業 化粧品材料頁 / テイカ 用途別製品仕様一覧)。無機の紫外線散乱剤としては酸化チタンと並んで酸化亜鉛があり、原料メーカーは酸化亜鉛についてもシリカの被覆で光触媒活性を抑えた原料を出している(出典: 堺化学工業 化粧品材料頁)。粉体の表面を何かで覆うという発想は、酸化チタンに限らない。
5. よくある質問
Q1. 日焼け止めの成分表に「水酸化Al」がありました。アルミニウムは肌に悪くないですか
評価機関の結論を見る限り、使用実態の範囲で問題視されてはいません。米国のCIRは2013年に水酸化アルミニウムを評価し、現行の使用実態と濃度で安全と結論しています。ほぼ水に溶けないため経皮浸透の懸念はない、という整理です(出典: CIR 2014)。EUのSCCSは、水酸化Alを含むアルミニウム化合物全体について、製品分類ごとの上限値の範囲で安全と結論しつつ、食事と合わせた総曝露には注意を促しています(出典: SCCS/1662/23)。日焼け止めに入る水酸化Alは、酸化チタンの表面を覆う処理剤の一部として少量入っていることがある成分です。
Q2. 制汗剤のアルミニウムと同じものですか
別の成分です。制汗剤の有効成分(クロルヒドロキシAlなど)は水に溶けるアルミニウム塩で、汗管の中で水酸化アルミニウムのゲルの栓をつくって一時的に汗を止めます(出典: SCCS/1613/19)。化粧品の水酸化Alは最初から水に溶けない粉体として配合され、汗を止める働きはありません。成分表に水酸化Alがあっても、その製品が制汗剤として働くわけではありません。詳しくはクロルヒドロキシアルミニウムの記事をご覧ください。
Q3. 胃薬の「乾燥水酸化アルミニウムゲル」と同じ成分ですか
同じ成分として扱うのは正確ではありません。乾燥水酸化アルミニウムゲルは日本薬局方で規格が定められた医薬品(制酸剤)で、酸化アルミニウム換算で50.0%以上を含むと定義されています(出典: 日本薬局方名称データベース)。化粧品・医薬部外品の水酸化アルミニウムは、医薬部外品原料規格2021で乾燥物の水酸化アルミニウム98.0%以上と、別の規格で定められています(出典: 医薬部外品原料規格2021)。どちらもアルミニウムの水酸化物系の原料ですが、規格も用途も別物です。
Q4. 成分表に「酸化チタン」と「水酸化Al」が並んでいたら、何を意味しますか
酸化チタンの表面を水酸化Alなどで覆った原料が使われている可能性がある、というところまで読めます。原料メーカーからは「酸化チタン、水酸化Al、ステアリン酸」のような表示名称の表面処理原料が出ており、製造元は処理の目的を光活性・表面活性の抑制と説明しています(出典: 堺化学工業 化粧品材料頁 / テイカ MT-500CST 資料 2023)。ただし成分表示は原料単位ではなく成分単位で書くため、実際にどの原料が使われているかは成分表からは分かりません。
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本記事に関する注記
- 本記事は特定商品の効果を保証するものではありません。成分の働きには個人差があり、体質・肌質により合わない場合があります。
- 肌に赤み・かゆみ・刺激等の異常が出た場合は使用を中止し、症状が続く・悪化する場合は皮膚科等の医療機関にご相談ください。傷・炎症のある肌への使用は避けてください。
- 本記事で扱う水酸化Alは、日本の化粧品表示名称「水酸化Al」(INCI Aluminum Hydroxide)・医薬部外品表示名称「水酸化アルミニウム」として配合される粉体を前提としています。医薬品の乾燥水酸化アルミニウムゲル、制汗剤の有効成分(クロルヒドロキシAl等)は別の成分です。
- SCCSの意見は水酸化Al単独ではなく、化粧品に使われるアルミニウム化合物全体を対象にしたものです。
- 本記事に含まれる製品数の集計は DappNotes 商品マスター(2026年9月時点・スキンケア54製品/ヘアケア78製品)に基づく自社集計であり、市場全体の分布を示すものではありません。
- 原料メーカーの製品説明は製造元の記述として紹介したもので、特定の商品にその原料が使われていることを示すものではありません。
- 本記事は成分の一般的な解説であり、化粧品・医薬部外品の効能効果は配合製品の承認・表示の範囲に従います。
- 外部の安全性指標(CIR・SCCS等)は出典明記の参考値であり、絶対的な安全性を保証するものではありません。
- 本記事はAIによる下書きを編集部がレビュー・再構成して作成しています。
- 編集部レビュー済み・AI下書き活用