ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンは、紫外線を吸収する有機系の紫外線吸収剤で、INCI名はBis-Ethylhexyloxyphenol Methoxyphenyl Triazine、米国での名称はBemotrizinol(ベモトリジノール)。UVB側とUVA側の両方に吸収の山を持ち、1つの成分でUVBからUVAまでを受け持つ(出典: 東京都健康安全研究センター研究年報 第60号 / FDA プレスリリース)。日本では化粧品基準の別表第4に収載され、配合できる量は100g中3.0gまでと決められている(出典: 厚生労働省『化粧品基準』)。

本記事では、紫外線吸収剤クラスタの1本として3点を整理する。1点目は、1つの日焼け止めに有機系フィルターが3〜4種並ぶ理由で、成分ごとに受け持つ波長が違う「分業」として読む。DappNotesで確認したメンズ向けUVジェル3品に並ぶ吸収剤のなかで、UVAとUVBの両域を受け持つのは本成分だけである。2点目は、読むのをあきらめたくなる長い名前の分解で、名前を部品に分けると分子の形がそのまま見えてくる。3点目は、日本3.0・EU10%・米国6%と国ごとに違う上限値の読み方になる。あわせて、光安定性と、他のフィルターを安定させるという一次論文も、確認できる範囲で扱う。

1. ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンの基本

1.1 何の成分か

本成分は、窒素を含む6員環「トリアジン環」を中心に、ベンゼン環を3つ結合させた有機化合物で、分子式はC38H49N3O5、分子量は約628(出典: PubChem / BASF Technical Information)。CAS番号は187393-00-6(出典: SCCNFP/0082/98)。化粧品表示名称が長すぎるため、分析や研究の文献では「BEMT」と略されることが多い(出典: 東京都健康安全研究センター研究年報 第60号)。原料の商品名としては、BASF社の「Tinosorb S(チノソーブS)」で流通する。

原料は淡い黄色の粉末で、水にはほとんど溶けず、油に溶かして使う油溶性の成分である。BASFの技術資料では、25℃での溶解度がメトキシケイヒ酸エチルヘキシルに17.0%、安息香酸アルキル(C12-15)に12.0%、パルミチン酸イソプロピルに5.0%、エタノールには0.5%未満と示されている(出典: BASF Technical Information)。PubChemが示す計算上の油水分配の指標(XLogP)も10.4と大きく、油になじむ性質が数字にも表れている(出典: PubChem)。

日本の化粧品基準では、化粧品表示名称ではなく化学名で「2,4-ビス-[{4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ}-フェニル]-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン」として別表第4に載っている(出典: 厚生労働省『化粧品基準』)。紫外線吸収剤は、この別表第4に載った成分だけを、決められた上限の範囲で化粧品に配合できる。本成分は医薬部外品の有効成分ではなく、日本の法規分類では配合上限つきの添加成分である。

一方、米国では日焼け止めがOTC医薬品(一般用医薬品)として規制されるため、同じ成分が「日焼け止めの有効成分(active ingredient)」と呼ばれる。米国FDAは2026年6月10日の最終命令で、本成分をOTC日焼け止めの有効成分として追加した(出典: FDA Final Administrative Order OTC000039)。国によって「有効成分」という言葉の指す枠組みが違う点は、海外の記事を読むときに混乱しやすい。

1.2 長い名前を分解して読む

30文字の化粧品表示名称は、分子の部品を順番に並べた名前になっている。区切ると次の4つに分かれる。

名前の部品意味分子の中の数
ビス「2つ」を表す接頭語。直後の部品が2個あることを示す―
エチルヘキシルオキシフェノール2-エチルヘキシル基(炭素8の枝分かれ鎖)が酸素(オキシ)を介してつながったフェノール(水酸基つきのベンゼン環)2個
メトキシフェニルメトキシ基(-OCH3)がついたベンゼン環1個
トリアジン炭素3個と窒素3個が交互に並ぶ6員環(1,3,5-トリアジン)1個(中心)

つまり分子の形は、「中心のトリアジン環に、エチルヘキシルオキシフェノールが2本、メトキシフェニルが1本、合わせて3本の腕が出ている」と読める。化学名の「2,4-ビス」はトリアジン環の2位と4位に同じ腕が2本、「6-(4-メトキシフェニル)」は6位に残りの1本がつくことを表す。

化学名では「ヒドロキシフェニル」、表示名称では「フェノール」と書かれているが、どちらも「水酸基(ヒドロキシ)がついたベンゼン環(フェニル)」を指す同じ部品にあたる。化学名の「2-ヒドロキシ」は、この水酸基がトリアジン環とつながる位置のすぐ隣にあることを示している。

部品の数を数えると、分子式とも合う。トリアジン環が炭素3・窒素3、ベンゼン環3つで炭素18、2-エチルヘキシル基2本で炭素16、メトキシ基で炭素1、合計で炭素38・窒素3になる。酸素は、エチルヘキシル基をつなぐ酸素2、水酸基2、メトキシ基1で計5個となり、C38H49N3O5と一致する。

名前を分解すると、兄弟成分とのつながりも見える。メトキシケイヒ酸エチルヘキシルやエチルヘキシルトリアゾンにも同じ「エチルヘキシル」の鎖が入っており、エチルヘキシルトリアゾンは化学名で「1,3,5-トリアジン」を中心に持つ、本成分と同じトリアジン系の成分にあたる(出典: 厚生労働省『化粧品基準』)。同じトリアジン系でも受け持つ波長が違う点は§3.3で扱う。

1.3 どんな製品に配合されるか

東京都健康安全研究センターの2009年の報告は、本成分を「紫外線をA波からB波まで広範な領域で吸収し、高い防御効果が得られる新規の紫外線吸収剤」として、最近の日焼け止めに配合されていると紹介している(出典: 東京都健康安全研究センター研究年報 第60号)。化粧品成分オンラインは、日焼け止めのほか、化粧下地、メイクアップ、ボディケア、ハンドケア、スキンケア製品を配合先に挙げている(出典: 化粧品成分オンライン)。

DappNotesの商品マスターで本成分の配合を確認できた商品は、メンズ向けのUVジェル3品にあたる。3品とも本成分を含む4〜5種の紫外線吸収剤を組み合わせており、その並びは§3.4で整理する。

1.4 メンズ視点での見方

メンズの日焼け止め選びでは、SPF・PAの数字と、べたつかない・白くならないといった使用感が主な判断材料になりやすい。成分表の中ほどに並ぶ長いカタカナの紫外線吸収剤は、読み飛ばされることが多い。

本成分を成分表で見つけたときの読み方は、「UVBとUVAの両方を受け持つ吸収剤が入っている」というところまでにとどめるのが現実的だ。本成分が入っているからといって、その製品の防御力が高いとは言えない。SPFとPAは、本成分の量だけでなく、組み合わせる他の吸収剤、基剤、塗る量で決まる。強さの判断は製品のSPF・PA表示で行い、成分表は「どういう組み方をしているか」を知る地図として使う。

2. 期待される働き・効果

2.1 メカニズム

本成分の働きは、紫外線を分子が吸収することにある。有機系の紫外線吸収剤は、ベンゼン環などが連なった分子の骨格が特定の波長の光を吸収し、そのエネルギーを熱などに変えて手放すことで、肌に届く紫外線を減らす。酸化亜鉛や酸化チタンのような無機系の散乱剤が主に粒子で光を跳ね返すのとは、仕組みが異なる。

本成分の特徴は、吸収の山が2つあることにある。化粧品成分オンラインは最大吸収波長を310nm(UVB側)と343nm(UVA側)と整理している(出典: 化粧品成分オンライン)。原料メーカーBASFの品質規格でも、吸光度の規格値はUVA側の341nmで測ると定められている(出典: BASF Technical Information)。公的な資料では、東京都健康安全研究センターが「紫外線をA波からB波まで広範な領域で吸収」と記し、米国FDAも「UVAとUVBの両方を防ぐ」と説明している(出典: 東京都健康安全研究センター研究年報 第60号 / FDA プレスリリース)。

この2つの山によって、本成分は1成分でUVBからUVAまでにまたがる。§3.3で並べる兄弟成分のなかで本成分が「両域担当」と呼べる位置にいるのは、この性質による。

もう1つの性質が光安定性にあたる。紫外線吸収剤のなかには、光を浴び続けると分子が壊れて吸収力が落ちるものがある。本成分について、BASFは「優れた光安定性」を持ち、「光に不安定なUVフィルターの優れた安定化剤」だと説明している(出典: BASF Technical Information)。これはメーカー自身の説明で、他のフィルターを安定させる働きを検証した一次論文は§3.5で扱う。

2.2 一般的な効能範囲

日本では、紫外線を防ぐ働きは化粧品の機能として扱われ、製品としての防御力はSPF(主にUVBの防御指標)とPA(UVAの防御指標)の表示で示される。本成分について成分の働きとして書けるのは、「紫外線(UVA・UVB)を吸収する」「日焼け止めの紫外線防御を担う成分の1つ」という範囲にとどまる。

本成分は医薬部外品の有効成分ではなく、承認された効能を持たない。紫外線を吸収するという物理化学的な働きを、肌の状態を変える効果に読み替えて本成分の効能とすることはできない。製品が表示できる効能は、製品全体として評価・表示されるもので、本成分1つに帰属させるものではない。

米国では日焼け止めがOTC医薬品のため、FDAは本成分を「有効成分」として、6%以下で成人と生後6か月以上の小児向けの日焼け止めに使うことについて、有効性と安全性の根拠が十分と結論している(出典: FDA Final Administrative Order OTC000039)。これは米国の制度での位置づけで、日本の化粧品での扱いとは枠組みが異なる。

2.3 限界・誤解されやすい点

誤解されやすい点は3つある。

1. 両域を受け持つなら、この成分だけで紫外線を防げる、という誤解。 本成分は1成分でUVBからUVAにまたがるが、日本では配合できる量が100g中3.0gまでと決まっている(出典: 厚生労働省『化粧品基準』)。実際の製品では、UVB担当やUVA担当の吸収剤と組み合わせて使われており、DappNotesで確認した3品も、本成分に加えて3〜4種の吸収剤を併用している(§3.4)。「両域担当」は、足りない波長を他の成分と分け合う組み方のなかでの役割と読むのが適切だ。

2. 光安定性が高いなら、塗り直しは不要、という誤解。 光安定性は、光を浴びたときに分子が壊れにくいという性質で、汗・皮脂・タオルでのこすれで日焼け止めが肌から落ちることとは別の話である。また、他のフィルターを安定させるという一次論文は、アボベンゾン(t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン)を含む処方での実験である(§3.5)。どの製品でも同じ効果が出ることの根拠にはならない。

3. 米国で2026年に加わった成分だから新しくて未知の成分、という誤解。 米国FDAが本成分をOTC日焼け止めの有効成分に加えたのは2026年6月だが、EUの科学委員会は1999年に最大10%での安全性を評価しており、FDAの発表も欧州などで長年日焼け止め成分として販売されてきたことに触れている(出典: SCCNFP/0082/98 / FDA プレスリリース)。米国での追加が遅かったのは、米国の制度上の手続きの話で、成分そのものが新しいという意味ではない。

3. 安全性・注意点

3.1 既知の刺激性・アレルギー報告

本成分の安全性について、公的な評価が2つある。

EUの科学委員会SCCNFPは、1999年2月17日に採択した見解で次のように整理している(出典: SCCNFP/0082/98)。

  • 経皮吸収: ごく低い吸収しか観察されなかった
  • 刺激性: 非刺激性と判断された
  • 感作性: 感作性・光感作性の証拠はなかった
  • 遺伝毒性: 変異原性・光変異原性の証拠はなかった
  • 結論: UV吸収剤として最大10%で化粧品に使用して安全。追加の制限や条件は提案しない

米国FDAは2026年6月の最終命令で、非臨床・臨床薬理・臨床安全性の試験や情報を検討したうえで、6%以下で成人と生後6か月以上の小児向けの日焼け止め有効成分として使うことについて、安全性の根拠が十分と結論した(出典: FDA Final Administrative Order OTC000039)。

二次資料では、化粧品成分オンラインが、皮膚刺激性はほとんどない、モルモットのマキシマイゼーション試験で感作性は陰性、眼刺激はわずかな結膜の発赤程度と整理している(出典: 化粧品成分オンライン)。米国の化粧品成分評価機関CIRによる本成分の単独評価は、本稿では確認できていない。

以上から、成分単体として刺激や感作を起こしにくいという評価が、EUと米国の審査で共通している。ただし日焼け止めには、ほかの紫外線吸収剤、エタノール、香料、防腐剤なども一緒に入る。製品で赤み・かゆみ・ひりつきが出た場合は使用を中止し、本成分に限らず処方全体を原因の候補として考えるのが現実的だ。

3.2 配合上限と、国ごとに数字が違う理由

本成分の配合上限は、日本・EU・米国で数字が違う。

地域上限根拠
日本100g中3.0g(粘膜に使用されることがない化粧品。洗い流すもの・洗い流さないものとも)。粘膜に使用されることがある化粧品は配合不可化粧品基準 別表第4
EU最大10%化粧品規則の紫外線吸収剤リスト。SCCNFP/0082/98が最大10%で安全と評価
米国6%以下(製品のSPF2以上などの条件つき)FDA最終命令 OTC000039(2026年6月10日)

(出典: 厚生労働省『化粧品基準』 / SCCNFP/0082/98 / BASF Technical Information / FDA Final Administrative Order OTC000039)

日本の3.0が一番小さいため、「日本では危険だと判断されている」と読みたくなるが、上限値は安全性の序列ではない。一次資料から確認できる範囲で、その理由を整理する。

EUの見解書は、評価の対象を「日焼け止め製品、濃度は最大10%」という想定用途として示し、その範囲について安全と結論している(出典: SCCNFP/0082/98)。米国では、DSM社が2024年9月23日に「6%以下」での追加を要請し、FDAはその6%以下について有効性と安全性を検討して結論を出した(出典: FDA Final Administrative Order OTC000039)。つまりEUでも米国でも、上限値は申請者が求めた濃度を審査した結果として決まっており、「その濃度を超えると危険だと分かった境目」を示す数字ではない。

日本の3.0gについては、本稿で確認した化粧品基準の告示や関連資料から、どういう申請・評価に基づく数値かは読み取れなかった。そのため日本の数値の由来は断定しない。言えるのは、上限値が各地域の審査の経緯で決まる数値だということと、日本で販売される化粧品は3.0gまでの範囲で処方されているということにとどまる。

なお、ハワイ州のサンゴ礁保護を目的とした日焼け止めの販売規制(Act 104)が名指ししている成分は、オキシベンゾンとオクチノキサート(メトキシケイヒ酸エチルヘキシル)の2つで、本成分は対象として挙げられていない(出典: ハワイ州 Act 104)。本成分を海洋環境規制の文脈で語る根拠は、この法律からは出てこない。

3.3 日焼け止めに有機系フィルターが並ぶ理由=担当波長の分業

日焼け止めの成分表を見ると、紫外線吸収剤が1つではなく3〜4種並んでいることが多い。商品マスターでは役割がまとめて「紫外線吸収剤」と書かれがちだが、成分ごとに受け持つ波長が違う。この「分業」で読むと、並んでいる理由が見えてくる。

読み分けの軸は2つある。1つ目は担当波長で、UVB担当・UVA担当・UVA/UVB両域のどれか。2つ目は分子の骨格で、そこから油溶性や分子の大きさといった性質の違いが出る。

成分担当波長分子の骨格日本の配合上限(洗い流さない・100g中)
メトキシケイヒ酸エチルヘキシルUVBケイ皮酸エステル20
ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルUVAベンゾフェノン骨格(ヒドロキシベンゾイル)をもつ10.0
ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン(本成分)UVA・UVB両域トリアジン環+ベンゼン環3つ3.0
エチルヘキシルトリアゾンUVBトリアジン環+アニリノ基3本5.0
ポリシリコーン-15UVBシリコーン骨格に吸収部位をもつポリマー10.0

(出典: 配合上限は厚生労働省『化粧品基準』別表第4。担当波長・骨格は各成分記事の一次情報。系統分けは本クラスタで共有する整理)

この表から見える本成分の位置は、5つのなかでただ1つの「両域担当」という点にある。UVB担当が3つ、UVA担当が1つあり、本成分はその間をまたぐ。

同じトリアジン環を中心に持つエチルヘキシルトリアゾンと比べると、骨格が似ていても担当が違うことが分かる。エチルヘキシルトリアゾンはUVB担当で、本成分は両域担当にあたる。つまり「トリアジン系だから同じ働き」とは言えず、環に何がつくかで吸収する波長が変わる。

注意したいのは、この表を強さの順位表として読まないことである。SPFとPAは、各成分の配合量、組み合わせ、基剤、塗る量で決まる製品全体の数値で、個々の成分の並びから「どれが一番強い」は読めない。日本の上限値が小さいことも、防御力の弱さや危険性を意味しない(§3.2)。表は、成分表の紫外線吸収剤が「何を分担しているか」を読むための地図として使う。

3.4 配合3商品での並び

DappNotesの商品マスターで本成分を含む3品について、紫外線防御にかかわる成分の表示順を並べる。

表示順オルビス ミスター ドライタッチ UVジェル(25成分)マニフィーク オールインワン ジェル UV(36成分)ニベアメン UVプロテクトジェル(22成分)
メトキシケイヒ酸エチルヘキシル(UVB)2位2位3位
ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル(UVA)7位6位6位
ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン(両域・本成分)8位11位9位
エチルヘキシルトリアゾン(UVB)11位なし11位
ポリシリコーン-15(UVB)なし9位12位
無機の散乱剤なし酸化チタン 36位(最後尾)なし

(出典: 各社公式サイトの全成分表示。担当波長の注記は§3.3の整理)

3品に共通する骨組みは、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル(UVB)、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル(UVA)、本成分(両域)の3種で、そこにUVB担当のエチルヘキシルトリアゾンかポリシリコーン-15が加わる(ニベアメンは両方)。メーカーの違う3品で、組み合わせも表示の順番もほぼ同じ形になっている。

本成分は3品とも、UVA担当の吸収剤のすぐ後ろ、または数成分後ろに置かれている。ただし表示順は、1%を超える成分は多い順・1%以下は順不同というルールに従う目安にとどまる。配合量%は公開されておらず、順位から推定することはできない。また、この並びから各製品の防御力や効果を読み取ることもできない。成分表で言えるのは、「UVB・UVA・両域の担当を組み合わせた処方になっている」というところまでにあたる。

なお、3品にはアボベンゾン(t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン)は表示されていない。§3.5で扱う安定化の論文はアボベンゾンを含む処方での実験のため、その結果をこの3品に当てはめることはできない。

3.5 光安定性と、他のフィルターを安定させるという一次論文

本成分が「他の紫外線吸収剤を安定させる」と語られる根拠として、よく引かれるのが2001年の一次論文にあたる(出典: Chatelain & Gabard 2001)。

論文の要旨: 研究者らは、水中油型(O/W)の日焼け止め処方に本成分を加え、キセノンアーク光源で紫外線を照射した。アボベンゾン(t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン)はUVAを吸収する成分だが、光で分解しやすいことが知られている。論文では、分光光度法でSPFとUVA比を、クロマトグラフィーで照射後に残った各フィルターの量を測った。

結果: 本成分は、アボベンゾンの光分解を濃度に応じて抑え、30MEDまでの照射でもSPFとUVA比が保たれた。さらに、アボベンゾンがメトキシケイヒ酸エチルヘキシルを不安定にすることが示されていたため、この2成分を組み合わせた処方でも試し、本成分は両方のフィルターに光保護作用を示した。著者らは、本成分がアボベンゾンとメトキシケイヒ酸エチルヘキシルを含む日焼け止めの光安定性と効率の改善に使えると結論している。

この論文から言えること・言えないことを分けておく。

  • 言えること: アボベンゾンを含む実験処方で、本成分の添加がアボベンゾン(およびアボベンゾンとメトキシケイヒ酸エチルヘキシルの併用系)の光分解を抑えた
  • 言えないこと: アボベンゾンを含まない処方でも同じ安定化が起きること。DappNotesの配合3品にはアボベンゾンが表示されていないため、3品にメトキシケイヒ酸エチルヘキシルが入っていても、この論文の結果をそのまま当てはめることはできない(§3.4)
  • 言えないこと: 市販製品の防御力がどれだけ持続するか。これは処方全体と使い方(塗る量・汗・こすれ・塗り直し)で変わる

メーカーのBASFも、本成分を光安定性が高く、光に不安定なUVフィルターの安定化剤として説明している(出典: BASF Technical Information)。メーカーの説明と、条件を限った一次論文の結果は、分けて読むのが適切だ。

3.6 「Tinosorb S」と「Tinosorb M」は別の成分

本成分の原料商品名「Tinosorb S」と名前が似た原料に、同じBASF社の「Tinosorb M」がある。海外の記事や製品説明で「Tinosorb」とだけ書かれていると取り違えやすいが、両者は別の成分である。

項目Tinosorb S(本成分)Tinosorb M
INCI名Bis-Ethylhexyloxyphenol Methoxyphenyl TriazineMethylene Bis-Benzotriazolyl Tetramethylbutylphenol
米国での名称BemotrizinolBisoctrizole
CAS番号187393-00-6103597-45-1
原料の形淡黄色の粉末を油に溶かして使う有効成分約50%の水分散液(粒子状の有機系フィルター)
日本の告示上の名前と上限(洗い流さない・100g中)2,4-ビス-[{4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ}-フェニル]-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン 3.02,2’-メチレンビス(6-(2Hベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール) 10.0

(出典: BASF Technical Information Tinosorb S / BASF Technical Information Tinosorb M / 厚生労働省『化粧品基準』)

BASFの資料では、Tinosorb Mもブロードスペクトラム(UVA・UVBの広い域)のフィルターと説明されている(出典: BASF Technical Information Tinosorb M)。「両域を受け持つ成分は本成分だけ」と言えるのは、DappNotesで確認した3品に並ぶ吸収剤のなかでの話で、紫外線吸収剤全体の話ではない。

日本の化粧品基準でも、両者は別の行に別の上限で載っている。INCI名も、本成分はBis-Ethylhexyloxyphenol Methoxyphenyl Triazine、Tinosorb MはMethylene Bis-Benzotriazolyl Tetramethylbutylphenolと、まったく違う名前になる。成分表を読むときは、原料の商品名ではなく表示名称・INCI名で見分けるのが確実だ。

4. 相性の良い・悪い成分

4.1 併用される成分

本成分は、担当波長の違う紫外線吸収剤と組み合わせて使われるのが基本になる。

他の紫外線吸収剤: 配合3品では、UVB担当のメトキシケイヒ酸エチルヘキシル、UVA担当のジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルと3品とも同じ処方に入り、さらにUVB担当のエチルヘキシルトリアゾンやポリシリコーン-15が加わる(§3.4)。マニフィークの製品では、無機系の散乱剤である酸化チタンも最後尾に表示されている。無機系の酸化亜鉛・酸化チタンと有機系吸収剤の併用は、仕組みの違う防御を重ねる組み方にあたる。

油剤: 本成分は粉末の原料で、油に溶かして処方に入れる。BASFの資料では、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルに17.0%、安息香酸アルキル(C12-15)に12.0%、パルミチン酸イソプロピルに5.0%溶けるとされる(出典: BASF Technical Information)。興味深いのは、UVB担当のメトキシケイヒ酸エチルヘキシルが、本成分を最もよく溶かす油の1つとして挙がっている点にある。同じ処方に並ぶ吸収剤どうしが、溶かす側と溶ける側の関係にもなりうる。ただし各製品で実際に何が本成分を溶かしているかは、全成分表示からは分からない。

エタノール・水: 一方で、エタノールへの溶解度は0.5%未満とされる(出典: BASF Technical Information)。ジェル状の日焼け止めにはエタノールが上位に入る製品もあるが、本成分はエタノールや水の側ではなく、油の側に溶けて処方に入ると考えるのが自然だ。

使用感を整える成分: 日焼け止めのジェルやミルクでは、ジメチコンやシクロペンタシロキサンなどのシリコーン油が、伸びやさらっとした感触のために組み合わされることがある。本成分の有無より、こうした基剤の設計が塗り心地を左右する。

4.2 注意したい組合せ

本稿で確認した一次資料では、化粧品の処方で本成分と避けるべき組み合わせは報告されていない。SCCNFPも、化粧品での使用について追加の制限や条件を提案していない(出典: SCCNFP/0082/98)。

米国FDAの最終命令には、本成分をPABA(アミノ安息香酸)やサリチル酸トロラミンと同じ製品に組み合わせてはならないという条件がある(出典: FDA Final Administrative Order OTC000039)。これは米国のOTC日焼け止めの制度で認められる組み合わせを定めた規定で、成分どうしが化学的に反応して危険になるという意味ではない。日本の化粧品の相性の話と混同しないようにしたい。

実用上の注意は、成分どうしの相性よりも期待の置き方にある。

  • 「安定化剤入り=落ちない」と考えない: 光安定性は、光で分子が壊れにくいという性質で、汗・皮脂・こすれで落ちることは防げない(§2.3)
  • 論文の結果を処方の違う製品に広げない: 他のフィルターを安定させるという一次論文は、アボベンゾンを含む処方での結果にあたる(§3.5)

5. 使い方

5.1 推奨される使用シーン

本成分は単独で使う成分ではなく、日焼け止めや、SPF・PA表示のある化粧下地・デイクリーム・UVジェルに組み込まれて使われる。使う側がやることは、本成分に合わせた特別な使い方ではなく、日焼け止めとしての基本を守ることだ。

  • SPF・PAで選ぶ: 通勤や短時間の外出と、屋外のスポーツやレジャーでは、必要な防御の目安が違う。成分表で本成分を探すより、製品のSPF・PA表示を用途に合わせて選ぶ
  • 量を守って塗る: 表示どおりの防御は、製品が想定する量を塗ったときの数値にあたる。薄く伸ばしすぎると、表示の防御は得にくい
  • 塗り直す: 汗をかいた後やタオルで拭いた後、長時間の屋外では塗り直す。光安定性が高い成分が入っていても、肌から落ちた分は補えない
  • 落とす: 1日の終わりには、製品の案内に従って洗顔料やクレンジングで落とす

成分表で本成分を見つけたときは、「UVB担当・UVA担当と組み合わせて、両域をまたぐ成分も入れた処方」と読める。紫外線吸収剤が合わなかった経験がある人は、特定の成分を避けたい場合に、この表示名称を手がかりに成分表を確認できる。

5.2 期待できないこと・避けるべき使い方

本成分に期待できないことは、次のとおり。

  • 本成分の有無で製品の強さを判断すること: 防御力は製品全体の処方で決まり、本成分が入っているかどうかでは読めない
  • 1回塗れば1日持つこと: 光に強い性質は、汗や皮脂で落ちることとは別で、塗り直しは必要になる
  • 成分表の順位から配合量を推定すること: 表示順は1%超の成分が多い順という目安で、本成分の配合%は公開されていない
  • 紫外線を吸収する以上の働き: 本成分は有効成分ではなく、紫外線を吸収する働きを肌の状態を変える効果に読み替えることはできない

避けたいのは、「海外で話題の成分だから強い」「上限が低いから危ない」といった、数字や評判の片面だけで判断することだ。

6. メンズ実用視点まとめ

メンズの日焼け止めの成分表でビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンを見かけたら、次の3点で読むと整理しやすい。

  1. UVAとUVBの両域を受け持つ吸収剤: 吸収の山がUVB側とUVA側の2つにあり、1成分で両域にまたがる。DappNotesで確認したメンズ向けUVジェル3品では、UVB担当・UVA担当と組み合わせた「両域担当」の位置に並ぶ
  2. 強さは成分表ではなくSPF・PAで見る: 本成分の有無や表示順から防御力は読めない。日本の配合上限3.0gがEU・米国より小さいことも、危険性や弱さの意味ではない
  3. 光に強くても、落ちた分は塗り直す: メーカーは光安定性が高いと説明し、一次論文もアボベンゾンを含む処方での安定化を示しているが、汗・皮脂・こすれで落ちることは防げない

皮脂が多い、汗をかきやすい、屋外で過ごす時間が長いといった条件は、日焼け止めが落ちやすい方向に働く。本成分を含む処方かどうかより、用途に合うSPF・PAの製品を選び、量を守って塗り、こまめに塗り直す習慣のほうが、実際の防御を大きく左右する。

7. よくある質問(FAQ)

Q1. ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンはどんな働きをする成分ですか?

紫外線を吸収する有機系の紫外線吸収剤です。吸収の山がUVB側とUVA側の2つにあり、1つの成分でUVBからUVAまでの広い域を受け持ちます(出典: 東京都健康安全研究センター研究年報 第60号 / FDA プレスリリース)。日焼け止めでは、UVB担当やUVA担当の吸収剤と組み合わせて使われます。

Q2. 名前が長すぎて読めません。どう区切ればよいですか?

「ビス/エチルヘキシルオキシフェノール/メトキシフェニル/トリアジン」の4つに区切れます。ビスは「2つ」、エチルヘキシルオキシフェノールは炭素8の枝分かれ鎖が酸素を介してついた水酸基つきベンゼン環、メトキシフェニルはメトキシ基つきベンゼン環、トリアジンは炭素3個と窒素3個の6員環です。中心のトリアジン環から、エチルヘキシルオキシフェノールが2本、メトキシフェニルが1本の腕が出ている形を表しています。

Q3. Tinosorb S、ベモトリジノール、BEMTは同じ成分ですか?

同じ成分を指します。Tinosorb SはBASF社の原料の商品名、Bemotrizinol(ベモトリジノール)は米国での名称、BEMTは分析や研究の文献で使われる略称です(出典: BASF Technical Information / 東京都健康安全研究センター研究年報 第60号)。日本の化粧品の成分表示では「ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン」と書かれます。名前の似たTinosorb Mは別の成分なので注意してください(§3.6)。

Q4. 日本の上限3.0gはEUの10%より低いですが、日本では危険と判断されているのですか?

上限値の違いは、安全性の序列を示すものではありません。EUの科学委員会は日焼け止めで最大10%という想定用途を評価して安全と結論し、米国FDAは申請者が求めた6%以下について審査しました(出典: SCCNFP/0082/98 / FDA Final Administrative Order OTC000039)。上限はそれぞれの地域で審査にかけられた濃度で決まっています。日本の3.0gがどういう申請・評価に基づくかは、本稿で確認した資料からは読み取れませんでした。

Q5. 肌への安全性はどう評価されていますか?

EUの科学委員会SCCNFPは、経皮吸収がごく低く、非刺激性で、感作性・光感作性や変異原性の証拠もないとして、最大10%で化粧品に安全と結論しています(出典: SCCNFP/0082/98)。米国FDAも2026年に、6%以下で成人と生後6か月以上の小児向けの日焼け止めについて安全性の根拠が十分と結論しました(出典: FDA Final Administrative Order OTC000039)。製品には他の成分も入るため、合わないと感じたら使用を中止してください。

Q6. 「他の紫外線吸収剤を安定させる」というのは本当ですか?

アボベンゾンを含む処方では、それを示した一次論文があります。2001年の論文で、本成分はアボベンゾンの光分解を濃度に応じて抑え、アボベンゾンとメトキシケイヒ酸エチルヘキシルの併用系でも両方に光保護作用を示しました(出典: Chatelain & Gabard 2001)。ただしアボベンゾンを含まない処方で同じことが起きるかは、この論文からは言えません。

Q7. 米国で2026年に承認されたと聞きました。新しい成分なのですか?

成分そのものは新しくありません。FDAは2026年6月10日の最終命令で本成分をOTC日焼け止めの有効成分に加えましたが、EUでは1999年に科学委員会が安全性を評価しています(出典: FDA Final Administrative Order OTC000039 / SCCNFP/0082/98)。FDAの発表も、本成分が欧州など多くの国で長年日焼け止め成分として販売されてきたことに触れています(出典: FDA プレスリリース)。

8. まとめ

ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンは、トリアジン環を中心にベンゼン環3つを持つ油溶性の紫外線吸収剤で、吸収の山がUVB側とUVA側の2つにある。1つの成分でUVBからUVAまでにまたがり、EUの科学委員会は最大10%で、米国FDAは6%以下で安全性を認めている(出典: SCCNFP/0082/98 / FDA Final Administrative Order OTC000039)。日本では化粧品基準の別表第4で100g中3.0gまでに制限されるが、上限値は各地域の審査の経緯で決まる数値で、安全性の序列ではない(出典: 厚生労働省『化粧品基準』)。

日焼け止めの有機系フィルターを担当波長の分業で読むと、本成分は「両域担当」にあたる。DappNotesで確認したメンズ向けUVジェル3品では、UVB担当のメトキシケイヒ酸エチルヘキシル、UVA担当のジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルと並ぶ共通の骨組みの1つになっている。長い名前は「ビス/エチルヘキシルオキシフェノール/メトキシフェニル/トリアジン」と区切ると、分子の形がそのまま読める。

光安定性は高いとメーカーが説明し、アボベンゾンを含む処方では他のフィルターを安定させた一次論文もある(出典: BASF Technical Information / Chatelain & Gabard 2001)。ただし論文の条件を処方の違う製品に広げることはできず、汗や皮脂で落ちた分は塗り直すしかない。成分表は処方の組み方を知る地図として使い、強さはSPF・PAの表示で判断するのが実用的な理解になる。

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