エリスリトールは、炭素4つの鎖に水酸基(-OH)が4つ並んだ糖アルコールで、INCI名はErythritol、化粧品表示名称も医薬部外品の表示名称も同じ「エリスリトール」の保湿成分にあたる(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 2008年版)。糖アルコールの中で最も分子量が小さく、ブドウ糖を酵母などで発酵させてつくられる(出典: Regnat ら 2018 / Bフードサイエンス)。化粧品では保湿に加えて、溶けるときに熱を奪う「ひんやり感」と、乾いたあとの「さらさら感」を出す感触改良の目的でも使われる(出典: 三菱ケミカル)。本記事では糖・糖アルコール系保湿クラスタの1本として、成分表でひとまとめに「保湿」とされがちな糖系成分を骨格(還元されているか・鎖か環か・何とつながっているか)で読み分け、本成分の立ち位置を示す。あわせて、甘味料としての経口摂取の話を肌に塗る化粧品に持ち込まないための線引きも整理する。

1. エリスリトールの基本

1.1 何の成分か

エリスリトールは、化学名でいえばブタン-1,2,3,4-テトロール、つまり炭素4つの鎖のすべての炭素に水酸基が1つずつ付いた4価のアルコールにあたる(出典: Regnat ら 2018)。分子式はC4H10O4、分子量は122.12で、医薬部外品の成分表示名称リスト(2008年版)では連番305に「エリスリトール」として載り、乾燥物を定量したとき本成分を98.0%以上含むことが本質として定められている(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 2008年版)。

糖アルコールとは、糖が持つカルボニル基(アルデヒド基やケトン基)を還元して水酸基に変えた多価アルコールの総称を指す。同じ仲間でよく知られるのが炭素6つのソルビトールで、ブドウ糖を還元して得られる。エリスリトールはこのソルビトールと同じ「鎖状の糖アルコール」の系統にあり、違いは鎖の長さにある。炭素4つのエリスリトール、炭素5つのキシリトール、炭素6つのソルビトールと並べると、鎖長だけが異なる兄弟関係として理解しやすい。Regnat らのレビューは、エリスリトールが炭素4つしか持たないため、糖アルコール全体の中で最も分子量が小さいと整理している(出典: Regnat ら 2018)。

もう1つの特徴は作り方にある。ソルビトールやマルチトールは原料の糖に水素を添加して(還元して)工業的に作られるのに対し、エリスリトールは化学合成だと高温とニッケル触媒が必要で収率も低く、採算が合わない。そのため発酵による生産が主流になった(出典: Regnat ら 2018)。1950年に酵母で発酵させた糖蜜の残渣から微量のエリスリトールが見つかったことをきっかけに研究が進み、Moniliella pollinis、Trichosporonoides megachiliensis、Aureobasidium 属など、糖濃度の高い環境に強い(耐浸透圧性の)酵母類を使う方法が開発されてきた。1990年には新しい天然甘味料として日本市場に登場している(出典: Regnat ら 2018)。国内の化粧品原料メーカーも、本成分を「グルコースから発酵法にて製造される」糖アルコールと説明している(出典: Bフードサイエンス)。

規制上の位置づけは、有効成分ではない添加成分にあたる。化粧品では保湿・感触改良の目的で配合され、医薬部外品では有効成分を支える「その他の成分」として使われうる。本成分自体に承認された効能はない。

1.2 どんな製品に配合されるか

原料メーカーの説明では、エリスリトールは保湿性に加えて、溶解時の吸熱によるひんやり感や、乾いた際のさらさら感を出す感触改良の目的で化粧品に使われる(出典: 三菱ケミカル)。剤形としては化粧水・オールインワン・美容液のような水系のスキンケアに加え、シャンプーなどの洗い流す製品にも入る。Regnat らは、湿潤剤としての機能と味の良さから歯磨きや洗口液の基剤にも使えるとしており、用途は食品から化粧品・医薬品まで幅広い(出典: Regnat ら 2018)。

DappNotes の商品マスターで本成分を含むのは3商品で、いずれも化粧品、表記はすべて「エリスリトール」だった。

商品剤形配合順位/全成分数近くに並ぶ保湿系成分
KUNDAL ハニー&マカデミア ネイチャーシャンプーシャンプー7/83グリセリン(6位)
SHISEIDO メン ハイドレーティング ローション C化粧水7/23グリセリン(2位)・キシリトール(6位)
チャップアップ オールインワンローションオールインワン4/57BG(2位)・グリセリン(3位)

(出典: DappNotes 商品マスター実測)

3本とも、本成分はグリセリンの近くに並ぶ。成分表示は「1%を超える成分は配合量の多い順、1%以下は順不同」というルールなので、順位は目安にとどまり、ここから配合量を推定することはできない。読み取れるのは「グリセリン・BGといった主要な保湿ベースと同じ層に置かれる例がある」という事実までにあたる。SHISEIDO のローションでは炭素5つの糖アルコールであるキシリトールが直前に並び、鎖長違いの糖アルコールを重ねる組み方の実例になっている。

1.3 メンズ視点での見方

男性の肌は皮脂分泌量が女性の約2倍とされる一方、肌内部の水分量は約半分とされ、表面はテカるのに内側は乾く「インナードライ」に陥りやすい(出典: メンズスキンケア・ヘアケア専門メディア各種)。この肌に対する保湿では、うるおいは足したいがベタつきは増やしたくない、という要望が出やすい。

エリスリトールは、原料メーカーが「乾いた際のさらさら感」「溶解時のひんやり感」を感触面の特徴として挙げる成分で、ベタつきを嫌う使い手向けの処方と方向性が合う(出典: 三菱ケミカル / Bフードサイエンス)。メンズ向けの化粧水やオールインワンに入っているのは、この感触面の性格とも整合する。ただし、本成分の配合がそのまま「ベタつかない」「冷感がある」ことを保証するわけではない。感触は処方全体、とくに主要な保湿剤の量や増粘剤、エタノールなどの揮発成分の有無で大きく変わる。成分表で本成分を見つけたら「さらっとした感触を狙った保湿の一員かもしれない」と読み、実際の使用感は製品で確かめるのが現実的にあたる。

2. 期待される働き・効果

2.1 メカニズム

エリスリトールの働きは、大きく「水を抱える保湿」と「感触をつくる物理的な性質」の2つに分けて理解できる。

保湿の側は、多価アルコールに共通する仕組みにあたる。分子に並ぶ水酸基が水分子と水素結合をつくり、水を引き寄せて抱える。Regnat らのレビューも本成分の用途を説明する中で湿潤剤(ヒューメクタント)としての機能に触れている(出典: Regnat ら 2018)。多価アルコールの保湿効果については、グリセリン・BG・DPG・エリスリトール・ジグリセリンをモデルに選んだ研究報告があり、保湿効果は角層に吸収された保湿剤の量に比例して高まったとされる(出典: Okamoto ら 1997)。ただしこの報告の抄録で詳しく比較されているのはグリセリンとDPGで、本成分個別の結果は確認できなかった。したがって本記事では、本成分の保湿力をグリセリンやソルビトールと数値で比べることはしない。

感触の側で本成分を特徴づけるのが、溶けるときの吸熱にあたる。固体の結晶が水に溶けるとき、周囲から熱を奪う性質(負の溶解熱)があり、本成分はこれが大きいため、溶ける瞬間に強い冷感が生まれる(出典: Regnat ら 2018)。化粧品原料メーカーも、粉末が溶ける際に周りの熱を奪う「吸熱効果」が高く、冷涼感を付与できると説明している(出典: Bフードサイエンス)。もう1つが、結晶性がよく、乾くとさらっとした感触になる点で、これも「さらさら感出し」として感触改良の目的に挙げられている(出典: Bフードサイエンス / 三菱ケミカル)。

ここで押さえておきたいのは、吸熱は「固体が溶ける瞬間」に起きる現象だという点にある。化粧水のように本成分がすでに水に溶けた状態で容器に入っている場合、塗ったときに同じ仕組みで冷感が生まれるとは限らない。製品の清涼感には、揮発するエタノールや、冷感を感じさせるメントールなど別の成分が関わることも多い。「エリスリトール入り=必ずひんやりする」と短絡せず、ひんやり感は本成分の性質の1つ、実際の使用感は処方全体で決まる、と分けて読むのが正確にあたる。

また学術レビューは、医薬用途では本成分と水との相互作用や、温度・酸・アルカリへの高い安定性が鍵になると述べている(出典: Regnat ら 2018)。糖のカルボニル基を還元済みの糖アルコールであることは骨格上の事実だが、そこから「製品中で色が変わりにくい」といった性能差を本記事で断定することはしない(骨格の読み分けは §3.3)。

2.2 一般的な効能範囲

化粧品に配合されたエリスリトールが担うのは、「肌にうるおいを与える」「肌の乾燥を防ぐ」「肌を整える」「毛髪にうるおいを与える」といった化粧品の効能範囲にとどまる。ひんやり感やさらさら感は、効能というより使用感・感触の設計にあたる。

本成分は医薬部外品の有効成分ではないため、「肌荒れを防ぐ」「ニキビを防ぐ」といった部外品の承認効能を本成分の働きとして語ることはできない。また「バリア機能を改善する」「肌の炎症を鎮める」「毛穴を引き締める」といった表現も、本成分の効果として断定できない。医薬部外品に本成分が入っている場合でも、効能を担うのは別の有効成分で、本成分は保湿や感触を支える添加成分の立場にあたる。

2.3 限界・誤解されやすい点

誤解されやすい点は3つある。

1つ目は「ひんやりする=肌を冷やして引き締める」という連想にあたる。本成分の冷感は、結晶が溶けるときに熱を奪う物理的な現象で、肌の状態を変える働きではない(出典: Regnat ら 2018 / Bフードサイエンス)。しかも前述のとおり、すでに溶けた状態の化粧水では同じ仕組みの冷感が起きるとは限らない。

2つ目は「分子が小さいから、よく浸透して深いところまでうるおう」という連想にあたる。原料メーカーは分子量が小さく浸透性が高いことを特徴に挙げているが(出典: Bフードサイエンス)、化粧品で語れるのは角層までの話で、それ以上の深さへの作用や、浸透性の高さが保湿力の高さを意味するかは、本記事で確認できた一次ソースからは言えない。

3つ目は「甘味料として食べられる成分だから、肌にもよい/悪い」という連想にあたる。食品としての評価は口から取り込む場合の話で、肌に塗る化粧品とは経路が異なる。この点は §3.5 で整理する。

3. 安全性・注意点

3.1 既知の刺激性・アレルギー報告

原料メーカーは本成分の化粧品での特徴を「低刺激」と説明しており、化粧品向けの原料には化粧品自主規格や医薬品添加物規格に適合するグレードが用意されている(出典: 三菱ケミカル / Bフードサイエンス)。医薬部外品の成分表示名称リストに収載され、純度の規格(乾燥物で98.0%以上)が本質として定められている点も、原料として品質が管理されている背景にあたる(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 2008年版)。ただしリストへの収載は「部外品で使う表示名が決まっている」という意味で、それ自体が安全性の評価結果ではない。

米国の化粧品成分安全性評価機関 CIR(Cosmetic Ingredient Review)は、構造の似た単純な糖アルコールとしてマンニトール・ソルビトール・キシリトールをまとめて評価し、「現在の使用実態と濃度において化粧品に安全」と結論している(出典: CIR Final Report)。一方、この評価の対象にエリスリトールは含まれておらず、本成分単独のCIR結論は本記事の調査範囲では確認できなかった。鎖長違いの兄弟が安全と評価されているのは参考情報になるが、それをもって本成分も同じ結論だと言い切ることはしない。

実用上の注意は、ほかの化粧品と同じ一般論にとどまる。配合製品全体には香料・防腐剤・界面活性剤なども含まれ、個別の相性はゼロではない。敏感肌やアトピー素因のある人は、初めての製品を腕の内側などで試してから使うのが無難にあたる。

3.2 推奨配合量と過剰使用時のリスク

本成分の化粧品での配合量について、確認できる一次ソースは見つからなかったため、本記事では数値の目安を示さない。商品マスターの3商品では成分表示の4〜7位に並ぶが、§1.2 のとおり、順位から配合量は読み取れない。

過剰使用によって本成分特有の問題が起きるという報告も、調査範囲では確認できなかった。複数の製品を重ねるときに気にしたいのは、本成分の量というより処方全体のバランスで、保湿剤や増粘剤が重なると感触が重くなることはある。「ひんやり感がほしいから本成分入りを何本も重ねる」といった使い方は、前述のとおり冷感の出方自体が処方次第なので、狙いどおりにならない可能性が高い。

3.3 糖系の保湿成分を骨格で読み分ける

商品マスターでは、本成分を含む糖系の保湿成分の役割がほぼ一律に「保湿」と記録される。成分表だけを見ていると同じ棚に並ぶ成分だが、分子の骨格を見ると、少なくとも3つの系統に分かれる。読み分けの軸は「糖のカルボニル基が残っているか・還元されているか」「鎖か環か」「糖が別の分子とつながっているか」の3点にあたる。

成分系統骨格の要点糖のカルボニル基
異性化糖糖(混合物)ブドウ糖・果糖が主体の糖混合物残る
トレハロース糖(非還元二糖)ブドウ糖2つが還元末端どうしで結合結合に使われ、還元末端を持たない
エリスリトール(本成分)糖アルコール(鎖状)炭素4つの鎖・水酸基4つ還元済み
ソルビトール糖アルコール(鎖状)炭素6つの鎖・ブドウ糖を還元還元済み
マルチトール糖アルコール(二糖)麦芽糖(二糖)を還元還元済み
イノシトール糖アルコール(環状)炭素6つの環(シクリトール)持たない
加水分解水添デンプン還元済みのデンプン分解物デンプン分解物に水素添加還元済み
グリセリルグルコシド配糖体グリセリンとブドウ糖がグリコシド結合還元末端を結合で塞ぐ
グリセリン3価アルコール(参考)炭素3つ・水酸基3つもともと糖ではない

(出典: 各成分の一次情報 / Regnat ら 2018 / 医薬部外品の成分表示名称リスト 2008年版)

この表の中で、エリスリトールは「還元済み・鎖状」の糖アルコールの系統に入る。同じ系統のソルビトールとは鎖の長さだけが違い、炭素4つの本成分は最小の糖アルコールにあたる。同じく還元済みでも、マルチトールは二糖を還元した大きめの分子、イノシトールは炭素が環になったシクリトールで、形がはっきり異なる。還元されていない糖そのものの異性化糖、糖の端を別の分子とつないだ配糖体のグリセリルグルコシドとは、系統そのものが違う。

実用上の読み方として、骨格の違いは「どれが保湿力で勝つか」の順位表ではない。本記事では骨格の違いから保湿力や安定性の差を推測して断定することはせず、本成分については一次ソースで確認できた「最小の糖アルコール」「発酵でつくる」「溶けるとき熱を奪い、乾くとさらっとする」という性格を立ち位置として示すにとどめる。製法の面でも、水素添加でつくるソルビトール・マルチトールに対し、本成分は発酵でつくる点が同じ糖アルコールの中での違いにあたる(出典: Regnat ら 2018)。

3.4 化粧品と医薬部外品で表示名は変わるか

糖系の保湿成分には、化粧品と医薬部外品で表示名が切り替わるものがある。商品マスターの部外品5商品の実際の表示を見ると、化粧品名と部外品名が異なる成分は、部外品側では部外品名で書かれていた。

成分化粧品での表示部外品での表示2008年版部外品リスト
エリスリトール(本成分)エリスリトール(部外品の配合商品なし)連番305「エリスリトール」
イノシトールイノシトールイノシット連番217「イノシット」
マルチトールマルチトールマルチトール/マルチトール液連番2245「マルチトール」・2246「マルチトール液」
グリセリルグルコシドグリセリルグルコシドグリセリルグルコシド液確認できない(版が古い)
異性化糖異性化糖異性化糖組成の近い「混合異性化糖」(連番857)のみ・同一性は未確認

(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 2008年版 / DappNotes 商品マスター実測)

本成分は、化粧品表示名称と部外品のリスト上の名称がどちらも「エリスリトール」で一致する。つまり、化粧品でも医薬部外品でも同じ名前で成分表に現れると考えてよい。商品マスターでは本成分を含む部外品がまだ無いため実表記での確認はできていないが、イノシトールが部外品では「イノシット」になるような名前の切り替えを、本成分では気にしなくてよい。なお、手元のリストは2008年版で、そこに載っていないことを「部外品には使えない」の根拠にはできない点も、兄弟成分を読むときの注意にあたる。

3.5 甘味料としての話と、肌に塗る話を分ける

エリスリトールは食品ではカロリーの低い甘味料として広く使われ、甘さは砂糖の60〜80%程度とされる(出典: Regnat ら 2018)。そのため本成分を検索すると、甘味料としての性質や、経口摂取と健康との関係を扱う研究・報道が多く見つかる。

ここで線を引いておきたいのは、それらが口から取り込み、消化管から吸収される場合の話だという点にある。化粧品は肌の表面に塗って使うもので、曝露の経路も量の考え方もまったく異なる。食品としての良い評価を「肌にも優しい」の根拠にするのも、経口摂取をめぐる懸念の報道を「化粧品に入っていると危ない」の根拠にするのも、どちらも経路を取り違えた短絡にあたる。本記事は化粧品成分としての解説なので、食品としての評価の是非には立ち入らない。肌に塗る成分としての安全性は、§3.1 のとおり化粧品原料としての情報で判断する。

4. 相性の良い・悪い成分

4.1 併用される成分

商品マスターの3商品では、本成分はいずれもグリセリンと同居し、オールインワンローションではBGとも並ぶ(出典: DappNotes 商品マスター実測)。保湿の主要な受け皿をグリセリンやBGが担い、本成分がその層に加わる組み方と読める。多価アルコールを複数重ねるのは保湿処方の一般的な設計で、成分ごとに感触の出方が違うため、組み合わせで使用感を調整しやすい。

同じ糖アルコールどうしの重ね方として、化粧水の例ではキシリトール(炭素5つ)と本成分(炭素4つ)が隣り合って並ぶ。鎖長違いの糖アルコールを組み合わせる実例にあたる。水溶性の高分子保湿成分であるヒアルロン酸Naなども、同じ水系の処方でよく併用される。

乾燥が強い肌では、水を抱える保湿成分だけでなく、水分の蒸発を抑える油分(エモリエント)を組み合わせるのが保湿の定石にあたる。本成分入りの化粧水を使う場合も、乳液やクリームなど油分を含む製品を重ねることで保湿を補える。

4.2 注意したい組合せ

本成分について、化粧品処方の中で避けるべき特定の組み合わせは、調査範囲の一次ソースでは確認できなかった。

実用上の注意は2つある。1つは、ひんやり感を期待するなら本成分だけを手がかりにしないこと。清涼感はエタノールやメントールなど別の成分の寄与も大きく、本成分の有無だけで使用感は判断できない。もう1つは、エタノールを含む製品では、清涼感と引き換えに乾燥感やしみる感覚を覚える人もいるため、敏感な人は本成分ではなく処方全体で選ぶこと。これは本成分の問題ではなく、組み合わされる成分側の性質にあたる。

5. 使い方

5.1 推奨される使用シーン

本成分を含む製品が向くのは、うるおいは足したいがベタつきは増やしたくない場面にあたる。皮脂が多く、重いクリームを嫌うメンズが、化粧水やオールインワンで保湿を済ませたいときの選択肢になる。本成分はさらっとした感触を狙う処方に使われる成分なので、成分表で見つけたときの手がかりになる(出典: 三菱ケミカル / Bフードサイエンス)。

シャンプーのような洗い流す製品にも本成分は入る。洗浄料に保湿成分を配合するのは、洗い上がりのつっぱり感や髪のきしみ感を和らげる感触設計の一環として行われることが多い。ただし洗い流す製品では肌や髪に残る量が限られるため、洗い流さない化粧水と同じ保湿を期待するのは適切でない。

使い方は製品の表示に従うのが基本で、化粧水やオールインワンなら洗顔後の清潔な肌に、手のひらで押さえるようになじませる。乾燥が気になる場合は、油分を含む製品を上から重ねる。

5.2 期待できないこと・避けるべき使い方

本成分に期待できないことを整理しておく。まず、本成分は医薬部外品の有効成分ではないため、ニキビ・肌荒れの予防や、シミ・シワの改善、毛穴の引き締め、育毛といった効果は期待できない。これらを求める場合は、その効能の承認を持つ有効成分を含む医薬部外品や、医薬品・皮膚科の領域を検討する。

次に、ひんやり感を「肌を冷やして鎮める」働きと受け取らないこと。本成分の冷感は結晶が溶けるときの物理的な吸熱で、肌の状態を変える働きではない。日焼け後やヒゲ剃り後の赤み・ほてりが強いときは、化粧品の感触に頼るより、刺激を避けて様子を見る、長引けば皮膚科を受診する、という判断が優先される。

最後に、甘味料として食べられる成分だからといって、口に入れても問題ない化粧品だと考えないこと。化粧品は肌に塗るためにつくられており、ほかの成分も含まれている。逆に、食品での健康報道を理由に本成分入りの化粧品を避ける必要があるかという判断も、食品の話とは切り分けて考える(§3.5)。

6. メンズ実用視点まとめ

メンズの肌は、皮脂が多いのに内側が乾きやすい。この肌で保湿を続けるには、うるおいとベタつきにくさの両立が鍵になる。エリスリトールは、保湿性に加えて「乾くとさらっとする」「溶けるときにひんやりする」という感触面の性格を持つ糖アルコールで、メンズ向けの化粧水・オールインワンやシャンプーに入っている(出典: 三菱ケミカル / DappNotes 商品マスター実測)。

成分表で本成分を見つけたときの読み方は3段になる。1段目は骨格で、本成分は炭素4つの鎖状の糖アルコール、つまりソルビトールの短い兄弟にあたり、糖そのものの異性化糖や配糖体のグリセリルグルコシドとは系統が違う。2段目は役割で、多くの処方では保湿の主な受け皿をグリセリンやBGが担い、本成分はその層に加わりつつ感触をさらっと寄せる一員と読める。3段目は線引きで、ひんやり感は物理現象であって肌を鎮める効果ではなく、甘味料としての経口の話は肌に塗る化粧品の良し悪しとは別、と分けて考える。

表示名の面では、本成分は化粧品でも医薬部外品でも「エリスリトール」で、イノシトール(部外品名イノシット)やマルチトール(部外品名マルチトール液もある)のような切り替えを気にしなくてよい。

7. よくある質問(FAQ)

Q1. エリスリトールはどんな働きをする成分ですか?

主な働きは保湿と感触の調整です。水酸基を4つ持つ糖アルコールで、水を引き寄せて抱える保湿剤として使われます。加えて、結晶が溶けるときに熱を奪うことで生まれるひんやり感や、乾いたあとのさらさら感を出す目的でも化粧品に配合されます(出典: 三菱ケミカル / Bフードサイエンス)。医薬部外品の有効成分ではなく、承認された効能は持ちません。

Q2. ソルビトールとは何が違いますか?

どちらも鎖状の糖アルコールで、違いは主に鎖の長さと作り方です。ソルビトールは炭素6つでブドウ糖に水素を添加して(還元して)作られ、エリスリトールは炭素4つで糖アルコールの中で最も分子量が小さく、ブドウ糖を酵母などで発酵させて作られます(出典: Regnat ら 2018 / Bフードサイエンス)。保湿力の優劣を数値で比べた一次情報は本記事の調査範囲では確認できなかったため、「どちらが上」とは言えません。

Q3. エリスリトール入りの化粧水はひんやりしますか?

必ずひんやりするとは言えません。本成分の冷感は、固体の結晶が水に溶けるときに熱を奪う現象によるものです(出典: Regnat ら 2018)。化粧水のように本成分がすでに溶けた状態で入っている製品では、同じ仕組みで冷感が生まれるとは限りません。製品の清涼感は、エタノールやメントールなど別の成分の影響も大きいため、使用感は製品ごとに確かめるのが確実です。

Q4. 甘味料のエリスリトールと化粧品のエリスリトールは同じものですか? 食品での健康報道が気になります

物質としては同じ名前の糖アルコールですが、食品は口から取り込み、化粧品は肌に塗るもので、使われ方がまったく異なります。食品としての研究や報道は経口摂取についての話で、化粧品として肌に塗った場合の安全性の根拠にも否定材料にもそのまま当てはめられません。化粧品原料としては、メーカーが低刺激と説明し、化粧品向けの規格品が流通しています(出典: 三菱ケミカル / Bフードサイエンス)。ほかの化粧品と同じく、配合製品全体との相性が気になる場合はパッチテストで確かめてください。

Q5. 医薬部外品の成分表では別の名前になりますか?

同じ「エリスリトール」です。2008年版の医薬部外品の成分表示名称リストには連番305として「エリスリトール」の名前で載っています(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 2008年版)。同じ糖系の保湿成分でも、イノシトールは部外品では「イノシット」、グリセリルグルコシドは「グリセリルグルコシド液」と表示されることがあり、本成分はそうした切り替えのない例にあたります。

8. まとめ

エリスリトールは、炭素4つの鎖に水酸基が4つ並ぶ、糖アルコールの中で最も小さな分子にあたる。化学合成が採算に合わないため、ブドウ糖を耐浸透圧性の酵母などで発酵させてつくられ、化粧品表示名称・医薬部外品表示名称とも「エリスリトール」で流通する(出典: Regnat ら 2018 / 医薬部外品の成分表示名称リスト 2008年版)。

化粧品では保湿に加え、溶けるときの吸熱によるひんやり感と、乾いたあとのさらさら感を出す感触改良に使われる(出典: 三菱ケミカル / Bフードサイエンス)。糖系の保湿成分を骨格で読み分けると、本成分はソルビトールと同じ「還元済み・鎖状」の糖アルコールで、糖そのものの異性化糖や配糖体のグリセリルグルコシドとは系統が異なる。

注意したいのは、ひんやり感を「肌を冷やして鎮める効果」と読み替えないこと、そして甘味料としての経口摂取の話を肌に塗る化粧品に持ち込まないことにあたる。本成分はグリセリンやBGとともに保湿の層をつくり、使用感をさらっと寄せる一員として読むのが、化粧品成分としての等身大の理解になる。

関連深掘り記事