リン酸Naは、INCI名 Sodium Phosphate の化粧品表示名称で、中身はリン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)にあたる無機塩。化粧品での配合目的は緩衝剤・抗フケ剤・消臭剤の3つが登録されている(出典: Cosmetic-Info.jp)。成分表の後半に「リン酸2Na」と並んで出てくることが多く、自社の商品マスターでも配合2製品はどちらもリン酸2Naのすぐ後ろにリン酸Naが並ぶ。

この成分は、製品を「効かせる」ためではなく「保つ」ために入る補助成分の1つにあたる。成分表の後半に並ぶ短い名前には、腐らせない(防腐)、金属を封じる(キレート)、形を保つ(増粘)、そしてpHを保つ(緩衝)といった裏方の仕事を受け持つものが多い。リン酸Naはこのうち「pHを保つ」係で、単独よりも、アルカリ側のリン酸塩と対で使われて本領を発揮する。

名前で迷いやすいのは、リン酸のナトリウム塩が3種類あることだ。リン酸は水素を3つ持ち、そのうち何個をナトリウムに置き換えたかで性格が変わる。化粧品表示名称では、1個置き換えたもの(一塩基)が「リン酸Na」、2個が「リン酸2Na」、3個が「リン酸3Na」と、それぞれ別の名前で登録されている。「Na」だけの名前はナトリウム1個、と覚えておくと成分表が読みやすくなる。

本記事では、(1)「リン酸Na」が3種類のどれを指すのかを一次資料で確定し、(2)リン酸2Naと両方入っている理由(緩衝系)を仕組みから整理し、(3)CIRの評価と、医薬品の経口リン酸ナトリウム製剤の注意喚起を分けて安全性を読む。なおリン酸Naは医薬部外品の有効成分ではなく、承認された効能はない。

1. リン酸Naの基本

1.1 何の成分か

リン酸Naは、リン酸(オルトリン酸・H3PO4)の水素1つをナトリウムに置き換えた塩で、化学式は NaH2PO4、式量は119.98(出典: CIR 2016)。水に溶けてナトリウムイオンとリン酸二水素イオンに分かれ、水溶液は弱い酸性を示す。医薬部外品原料としては、無水物のほか2水和物・1水和物の形で流通する。

「リン酸Na」が一塩基のリン酸二水素ナトリウムを指すことは、次の4つの一次資料が一致して示している。

資料記載読み取れること
化粧品表示名称DB(jcln「リン酸Na」)定義「リン酸のナトリウム塩であり、次の化学式で表される」・CAS 7558-80-7/7632-05-5・中文名称「磷酸二氢钠」定義文の化学式は画像で、文字では塩基の数が書かれていない。CAS 7558-80-7 と中文名称(リン酸二水素ナトリウム)が一塩基を示す
EU CosIng(SODIUM PHOSPHATE)INN「sodium phosphate, monobasic」・化学名「Sodium dihydrogenorthophosphate」・CAS に二水和物 13472-35-0 を併記一塩基(monobasic)と明記
CIR 2016 報告書 Table 2Sodium Phosphate の式量 119.98NaH2PO4 の式量と一致
部外品添加物DB(jsqi「リン酸二水素ナトリウム」)英名 Sodium Phosphate, Monobasic部外品名との対応

(出典: Cosmetic-Info.jp / 欧州委員会 CosIng / CIR 2016 / PubChem)

jcln の定義文だけを読むと「リン酸のナトリウム塩」としか書かれていないため、単独では決め手にならない。一方、同じDBで二塩基は「リン酸2Na」(定義「リン酸の二ナトリウム塩」)、三塩基は「リン酸3Na」(定義「リン酸の三ナトリウム塩」)として別に登録されており、CAS番号・中文名称・EUの登録と合わせると、「リン酸Na」は一塩基だと確定できる(出典: Cosmetic-Info.jp / CosIng)。

医薬部外品では名前が変わる。医薬部外品の成分表示名称リスト(平成20年版)では「リン酸二水素ナトリウム」(連番2721)として載り、本質は「リン酸のナトリウム塩の2水和物」、簡略名は「リン酸2水素Na」「リン酸1Na」。1水和物は「リン酸二水素ナトリウム(一水塩)」として別の連番(2722)が立っている(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト)。薬用化粧品の成分表で「リン酸1Na」を見かけたら、化粧品でいうリン酸Naと同じ物質と読んでよい。

1.2 どんな製品に配合されるか

米国の使用実態は、CIRの2016年報告書が参照する米FDAの届出制度(VCRP)で分かる。2016年の Sodium Phosphate の届出は87件で、リーブオン(洗い流さない)52件・リンスオフ(洗い流す)35件だった。業界団体の2015年の使用濃度調査では、最大使用濃度は0.0000015〜2.6%の幅にあり、リーブオンの最大は2%、リンスオフの最大は2.6%(出典: CIR 2016)。届出の内訳には目のまわり(9件)、口に入りうる製品(7件)、ヘアケア(6件)なども含まれ、剤型を選ばず使われていることが分かる。なお VCRP には別枠で「Sodium Phosphate, Monobasic」の届出も31件あり、こちらは濃度の報告がない(出典: CIR 2016)。一塩基の塩が、INCI名とは別の呼び方でも届け出られていたとみられる。

自社の商品マスター(スキンケア54製品・ヘアケア78製品)では、リン酸Naを含むのは次の2製品で、ヘアケアは0件だった(出典: DappNotes 商品マスター集計)。

製品タイプリン酸Naの順位全成分数同じ製品に入るpH関連成分
オールインワンジェル(P094)21位28リン酸2Na(20位)・水酸化Na(22位)・クエン酸
化粧水(P095)18位20リン酸2Na(17位)

(出典: DappNotes 商品マスター集計。全成分はブランド公式サイト掲載情報による)

2製品は同じブランドの化粧品で、どちらもリン酸2Naとリン酸Naが連続して並ぶ。リン酸塩の酸性側と塩基性側を両方入れる、典型的なリン酸緩衝系の書き方にあたる(仕組みは2.1で説明する)。自社マスター全体では、リン酸2Naを含む製品は6製品、リン酸Kを含む製品は4製品あり、リン酸Naより出番が多い。

⚠️ 順位の読み方には注意が要る。全成分表示は原則として配合量の多い順だが、1%以下の成分は順不同で書いてよいため、リン酸2Naとリン酸Naが隣り合っていることも、20位前後にあることも、配合量や配合比の根拠にはならない。成分表から分かるのは「両方入っている」ことまでで、どちらが多いか、最終的なpHがいくつかは読み取れない。

1.3 メンズ視点での見方

リン酸Naを含む2製品は、どちらもメンズ向けのスキンケアとして商品マスターに登録されている(出典: DappNotes 商品マスター集計)。ただし、リン酸Naがメンズ向けだから入っているわけではない。pHを一定に保つ仕組みは、化粧水・ジェル・美容液など水を多く含む製品に共通する処方上の部品で、使う人の性別とは関係がない。

実用上の結論は、成分表で「リン酸Na」を見つけたら「pHを保つ仕組みが組まれている」と読めば十分、という点にある。肌に何かを与える成分ではないので、これを理由に製品を選んだり避けたりする必要は薄い。気にするなら、有効成分や保湿成分、洗浄成分、香料・アルコールの有無といった、使い心地や刺激に直結する成分を先に見るほうが役に立つ。

2. 期待される働き・効果

2.1 メカニズム

リン酸は水素を3つ持つ酸で、pHが上がるにつれて、リン酸二水素イオン(H2PO4⁻)→リン酸一水素イオン(HPO4²⁻)→リン酸イオン(PO4³⁻)と水素を1つずつ手放していく(出典: CIR 2016)。リン酸Na(NaH2PO4)は1段目、リン酸2Na(Na2HPO4)は2段目、リン酸3Na(Na3PO4)は3段目の形に対応する塩にあたる。

緩衝(バッファー)は、この「水素を手放す/受け取る」ペアを同時に水の中に置くことで成り立つ。

  • 製品にアルカリ(たとえば汚れや他の成分由来)が入ってくると、リン酸二水素イオン(リン酸Na側)が水素を差し出して中和する
  • 酸が入ってくると、リン酸一水素イオン(リン酸2Na側)が水素を受け取って中和する

片方だけでは片側の変化しか受け止められないが、両方があれば、酸・アルカリのどちらが少し入ってもpHがあまり動かない。リン酸Naとリン酸2Naが同じ製品に並ぶのはこのためで、2つの比率を変えることで、狙ったpHに合わせた緩衝系を組める。医薬品・生化学の分野で使われる「リン酸緩衝液」も同じ組み合わせにあたる。

逆にいえば、成分表にリン酸Naしかない場合は、水酸化Naなど別のアルカリで一部を中和して、同じような緩衝系を作っている可能性がある。P094 には水酸化Naも入っているが、どの成分がどれだけpHに効いているかは表示からは分からない。

2.2 一般的な効能範囲

化粧品表示名称DB(jcln)に登録されたリン酸Naの配合目的は、緩衝剤・抗フケ剤・消臭剤の3つ(出典: Cosmetic-Info.jp)。EUの CosIng でも機能は BUFFERING(緩衝)・ANTI-SEBORRHEIC(抗脂漏)・DEODORANT(消臭)の3つで、日本の分類と対応している(出典: CosIng)。

ここで注意したいのは、これらが「配合目的の分類」であって、承認された効能ではないことだ。抗フケ剤・消臭剤が挙がっている理由は、表示名称DBの記載からは読み取れない。少なくとも、自社マスターで配合されている2製品はスキンケアで、リン酸Naは緩衝系の一方として入っていると読むのが自然にあたる。フケや体臭に効く成分として扱う根拠は、本記事で確認した資料の中には見当たらない。

興味深いのは、相方のリン酸2Naの配合目的には「pH調整剤」が入っているのに、リン酸Naには入っていない点だ(出典: Cosmetic-Info.jp)。実際の処方でリン酸Naが担っている役割は、2.1で見たとおり緩衝系の酸性側で、表示上の分類は「緩衝剤」がそれにあたる。

2.3 限界・誤解されやすい点

1つ目は、「リン酸Na」を「リン酸ナトリウム類の総称」と読んでしまう誤解。表示名称では一塩基・二塩基・三塩基が別々の名前で登録されているため、「リン酸Na」は一塩基のリン酸二水素ナトリウムを指し、リン酸2Naやリン酸3Naを含む総称ではない(出典: Cosmetic-Info.jp)。

2つ目は、「アスコルビルリン酸Na」「トコフェリルリン酸Na」「リボフラビンリン酸Na」など、名前の末尾に「リン酸Na」が付く別成分との混同。これらはビタミン類などにリン酸を結合させた誘導体で、本記事のリン酸Naとは別の成分にあたる。たとえばアスコルビルリン酸NaはビタミンC誘導体で、働きも評価もまったく違う。成分表では前にどんな語が付いているかまで読むことが大切になる。

3つ目は、「リン酸」という語から強い酸を連想すること。リン酸そのものは低いpHで刺激を示すが、リン酸Naはその水素の一部をナトリウムに置き換えた塩で、製品の中ではリン酸2Naと合わせてpHを穏やかな範囲に保つ側に回る(出典: CIR 2016)。

3. 安全性・注意点

3.1 既知の刺激性・アレルギー報告

リン酸Naは、CIR(米国の化粧品成分安全性評価機関)が2016年11月に公開した最終報告書『Safety Assessment of Phosphoric Acid and Its Salts as Used in Cosmetics』(Status: Final Report)で、リン酸とその塩31成分の1つとして名指しで評価されている(出典: CIR 2016)。結論の対象リストに Sodium Phosphate が含まれ、結論は「現行の使用実態・使用濃度において、刺激を起こさないよう処方される場合に安全」。同報告書は2021年に学術誌 International Journal of Toxicology にも掲載された。

報告書にまとめられた Sodium Phosphate 自体のデータは次のとおり(出典: CIR 2016)。

試験条件結果
皮膚刺激性(ウサギ)無傷の皮膚に4時間・閉塞なし刺激なし
皮膚刺激性(ウサギ)無傷・擦過した皮膚に24時間・閉塞刺激なし
皮膚感作性(マウス局所リンパ節試験)プロピレングリコール中10%まで感作性なし
眼刺激性(ウサギ・Draize試験)24時間後洗眼ありでほぼ刺激なし、洗眼なしで軽度
遺伝毒性(Ames試験ほか)細菌・酵母の試験系陰性

結論に付いた「刺激を起こさないよう処方される場合に」という条件は、リン酸塩の仲間全体を見渡したときの幅を踏まえたもの。リン酸そのものは2.5%・pH2.1で刺激を示し、17.5%以上では腐食性を示した。塩類でも1〜50%の範囲で皮膚刺激が、10%・15%で眼刺激が報告されている(出典: CIR 2016)。同じナトリウム塩でも、リン酸Naはウサギ皮膚で刺激なし、リン酸2Naは中程度の刺激、と差がある点も報告書に記載がある。

人での皮膚感作(アレルギー)の報告について、本記事で確認した資料の中にリン酸Naを原因とする事例は見当たらなかった。ただし製品全体には防腐剤・香料・界面活性剤なども入るため、肌に合わないと感じたときは、リン酸Na単独ではなく製品全体の問題として考えるのが現実的にあたる。

3.2 推奨配合量と過剰配合時のリスク

リン酸Naに「推奨配合量」という考え方はあまりなじまない。緩衝系の強さと狙うpHに合わせて、相方のリン酸2Naとの比率で量が決まるためだ。実際の使用濃度は、CIRの報告書で最大2.6%(リンスオフ)、リーブオンでは最大2%で、下は0.0000015%というごく微量まで幅がある(出典: CIR 2016)。

表示名称DBの規制分類欄は空欄で(出典: Cosmetic-Info.jp)、EUの CosIng にも配合上限などの制限の記載は見当たらない(出典: CosIng)。

「多すぎると何が起こるか」を考えるときの軸はpHになる。緩衝系の比率が偏れば製品のpHが酸性側に寄り、刺激の原因になりうる。CIRの結論が「刺激を起こさないよう処方される場合に」と条件を付けているのは、成分の量そのものより、最終的な製品が刺激性にならないよう設計することを求めていると読める(出典: CIR 2016)。消費者の側でpHを確かめる手段は限られるため、刺激を感じた製品は使用を止める、という一般的な対応で十分だろう。

もう1つ、報告書の討議では、リン酸塩に混ざりうる重金属について Panel が懸念を示し、業界に適正製造規範(cGMP)で不純物を抑えるよう求めている(出典: CIR 2016)。これは原料の品質管理の話で、配合量の多寡とは別の論点にあたる。

3.3 「危険性」と言われる根拠と実態の整理

リン酸Naについて「危険」と言われるときの根拠は、大きく3つの別々の話が混ざっていることが多い。

1つ目は、医薬品の経口リン酸ナトリウム製剤の注意喚起。 リン酸ナトリウムを含む製品は、大腸内視鏡の前に腸をからにする目的で使われてきた。米FDAはこの用途で急性リン酸腎症(腎臓の尿細管にリン酸カルシウムの結晶がたまり、腎機能が損なわれうる腎障害)の報告を把握し、処方薬の経口リン酸ナトリウム製品2品に枠付き警告(ボックス警告)の追加を求め、市販の経口リン酸ナトリウム下剤を腸管洗浄に使うべきでないとの見解も示している(出典: CIR 2016)。CIRの報告書は、この事実を化粧品以外の用途として記載したうえで、腎毒性は化粧品の曝露では想定されないと結論している。理由は、化粧品での曝露量が、有害影響が出た条件よりはるかに小さいと合理的に見込めるためだ(出典: CIR 2016)。大量を一度に飲む医薬品と、微量を肌に塗る化粧品は、経路も量も別の話になる。

2つ目は、「リン酸塩=環境に悪い」というイメージ。 これは洗剤に大量配合されたリン酸塩と水質の問題に由来する話で、リン酸2Naの記事で詳しく整理している。環境負荷と肌への安全性は別の軸で、リン酸Naの肌への評価はCIRの結論のとおりにあたる。

3つ目は、食事からのリンの摂りすぎの話。 加工食品に使われるリン酸塩の摂りすぎを気にする議論は、口から入るリンの総量の話で、肌に塗る化粧品の緩衝剤とは文脈が違う。リン酸ナトリウムはベーキングパウダーや食品の酸味料・金属封鎖剤としても使われる(出典: CIR 2016)身近な塩で、化粧品に入る量はごく少ない。

まとめると、リン酸Naの肌への安全性は、CIRが名指しで評価し、刺激を起こさない処方であれば安全と結論している。一方で、医薬品として大量に飲む場面には明確な注意喚起があり、これは化粧品の評価と混同しないほうがよい。どちらかに寄せて「安全」「危険」と言い切らず、場面ごとに分けて読むのが中立な整理になる。

4. 相性の良い・悪い成分

4.1 併用推奨

リン酸Naのいちばんの相方はリン酸2Na。2.1で見たとおり、酸性側のリン酸Naと塩基性側のリン酸2Naを両方入れると、比率で狙ったpHに合わせた緩衝系ができる。自社マスターでリン酸Naを含む2製品が、どちらもリン酸2Naとセットで配合されているのは、この組み合わせの典型例にあたる(出典: DappNotes 商品マスター集計)。

カリウム塩のリン酸Kも同じリン酸緩衝系を作れる仲間で、自社マスターではリン酸2Naとリン酸Kを組み合わせた製品もある(出典: DappNotes 商品マスター集計)。ナトリウム塩とカリウム塩のどちらを選ぶかは処方側の設計の問題で、消費者が優劣を気にする必要はない。

4.2 併用注意

成分同士の直接の相性で、消費者が気にすべき組み合わせは特に見当たらない。緩衝剤は、ほかのpH調整剤(クエン酸、水酸化Naなど)と同じ製品に入ることも多く、処方の中で役割を分け合っている。P094 にもリン酸Na・リン酸2Naのほかに水酸化Naとクエン酸が入っている(出典: DappNotes 商品マスター集計)。

処方設計の側では、リン酸塩とカルシウムの関係が論点になる。CIRの報告書は、リン酸塩の水への溶けやすさが陽イオンの種類とpHで変わると整理している(出典: CIR 2016)。また一般論として、カルシウムでゲル化するアルギン酸Naでは、リン酸塩(例としてヘキサメタリン酸Na)を含む緩衝液を使うと、リン酸基がアルギン酸と競ってカルシウムを取り合うためゲル化が遅くなる、と報告されている(出典: Lee & Mooney 2012)。これは本記事で扱う2製品の処方の話ではなく、原料を選ぶ段階でメーカーが調整する話で、完成品を使う側が気にする必要はない。

4.3 類似成分

リン酸Naは「製品を保つ」ために少量入る補助成分の1つ。同じく成分表の後半に並ぶ裏方の成分と比べると、それぞれの仕事が見えてくる。

成分仕事どう働くかCIRの名指し評価
ソルビン酸K腐らせない(防腐)微生物の増殖を抑える各記事参照
ヒドロキシアセトフェノン腐らせない(防腐補助)防腐系を補う各記事参照
クロラミンT腐らせない(防腐・殺菌)塩素を放出して殺菌する各記事参照
エチドロン酸4Na金属を封じる(キレート)金属イオンを抱え込む各記事参照
リン酸Na(本成分)pHを保つ(緩衝)リン酸2Naと組んで酸・アルカリを受け止めるあり・刺激を起こさない処方で安全
アルギン酸Na形を保つ(増粘・ゲル化)水にとろみを付ける各記事参照
リン酸2NapHを保つ(緩衝・pH調整)リン酸塩の塩基性側あり(リン酸Naと同じ報告書)
リン酸KpHを保つ(緩衝・pH調整)カリウムのリン酸塩あり(リン酸Naと同じ報告書)

(出典: 各成分記事 / CIR 2016)

リン酸塩3本の違いは、置き換えた水素の数と陽イオンの種類にある。

表示名称INCI名中身性格
リン酸Na(本成分)Sodium Phosphateリン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)緩衝系の酸性側
リン酸2NaDisodium Phosphateリン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)緩衝系の塩基性側
リン酸3NaTrisodium Phosphateリン酸三ナトリウム(Na3PO4)より強い塩基性
リン酸KPotassium Phosphateリン酸二水素カリウム(KH2PO4)カリウム版の酸性側

(出典: Cosmetic-Info.jp / CosIng / PubChem)

リン酸K(INCI Potassium Phosphate)も、EUの CosIng では INN「potassium phosphate, monobasic」・化学名「Potassium dihydrogenorthophosphate」、CIRの報告書では「一般にリン酸二水素カリウムと呼ばれる」塩と整理されている(出典: CosIng / CIR 2016)。表示名称DBでは二塩基が「リン酸2K」(Dipotassium Phosphate)、三塩基が「リン酸3K」として別に登録されている(出典: Cosmetic-Info.jp)。つまりナトリウム塩とカリウム塩で、名前の付け方は同じ規則に従っている。

緩衝の考え方が同じ成分としては、クエン酸Naとクエン酸の組み合わせもある。リン酸系とクエン酸系は、得意なpH域や処方との相性で使い分けられる。

5. よくある質問

Q1. リン酸Naとリン酸2Naは何が違いますか

リン酸の水素をナトリウムに置き換えた数が違います。リン酸Naは1つ置き換えたリン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)、リン酸2Naは2つ置き換えたリン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)で、表示名称でも別の成分として登録されています(出典: Cosmetic-Info.jp)。緩衝系ではリン酸Naが酸性側、リン酸2Naが塩基性側を受け持ち、両方そろうことでpHが動きにくくなります。

Q2. 同じ製品にリン酸Naとリン酸2Naが両方入っているのはなぜですか

2つを組み合わせてリン酸緩衝系を作り、製品のpHを一定の範囲に保つためです。酸が入ればリン酸2Na側が、アルカリが入ればリン酸Na側が受け止めます。ただし、全成分表示では1%以下の成分を順不同で書けるため、成分表から2つの比率や最終的なpHは分かりません。

Q3. 医薬部外品の成分表にある「リン酸二水素ナトリウム」「リン酸1Na」はリン酸Naと同じですか

同じ物質です。医薬部外品の成分表示名称リストでは「リン酸二水素ナトリウム」の名前で載り、簡略名として「リン酸2水素Na」「リン酸1Na」も使われます(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト)。化粧品と医薬部外品で表示のルールが違うため、名前が変わります。

Q4. リン酸ナトリウムは腎臓に悪いと聞きました。化粧品に入っていても大丈夫ですか

腎臓への注意喚起は、大腸内視鏡の前に腸をからにするため大量に飲む医薬品(経口リン酸ナトリウム製剤)についてのものです。CIRは、化粧品での曝露はそうした影響が出る量よりはるかに小さいため、腎毒性は想定されないと結論しています(出典: CIR 2016)。化粧品としてのリン酸Naは、刺激を起こさないよう処方される場合に安全と評価されています。

Q5. リン酸Naは肌に何か良い働きをしますか

日本の化粧品での配合目的は緩衝剤・抗フケ剤・消臭剤として登録されていますが、これは配合目的の分類で、承認された効能ではありません(出典: Cosmetic-Info.jp)。医薬部外品の有効成分でもありません。スキンケア製品では、製品のpHを保つ裏方として入っていると読むのが自然です。

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本記事に関する注記

  • 本記事は特定商品の効果を保証するものではありません。成分の働きには個人差があり、体質・肌質により合わない場合があります。
  • 肌に赤み・かゆみ・刺激等の異常が出た場合は使用を中止し、症状が続く・悪化する場合は皮膚科等の医療機関にご相談ください。傷・炎症のある肌への使用は避けてください。
  • 本記事が参照するCIRの報告書は2016年11月16日公開の最終報告書(Final Report)です。
  • 本記事で触れた経口リン酸ナトリウム製剤は医薬品です。服用については医師・薬剤師の指示に従ってください。
  • 本記事に含まれる製品数の集計は DappNotes 商品マスター(2026年9月時点・スキンケア54製品/ヘアケア78製品)に基づく自社集計であり、市場全体の分布を示すものではありません。
  • 本記事は成分の一般的な解説であり、化粧品・医薬部外品の効能効果は配合製品の承認・表示の範囲に従います。
  • 外部の安全性指標(CIR等)は出典明記の参考値であり、絶対的な安全性を保証するものではありません。
  • 本記事はAIによる下書きを編集部がレビュー・再構成して作成しています。
  • 編集部レビュー済み・AI下書き活用