イソステアリン酸ソルビタンは、ソルビトール由来のソルビタンに、分岐した飽和脂肪酸のイソステアリン酸を結合させた非イオン界面活性剤で、INCI名はSorbitan Isostearateです。酸化エチレン(EO)を付加していないため親油性が強く、油の中に水を分散させるW/O乳化の乳化剤や、親水性の乳化剤と組み合わせる補助乳化剤として使われます(出典: 化粧品成分オンライン / Croda)。医薬部外品での表示名称は「モノイソステアリン酸ソルビタン」です(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版)。
本記事では3点を整理します。1点目は、同じソルビタン骨格を持つ乳化剤の中での位置で、EOを付けるか・脂肪酸が何本付くか・どの脂肪酸かによって親油側から親水側まで並ぶ「HLBのはしご」で読み分けます。2点目は、オレイン酸ソルビタンとの違いで、脂肪酸が直鎖の不飽和脂肪酸(オレイン酸)か分岐の飽和脂肪酸(イソステアリン酸)かという差です。3点目は、DappNotesの商品マスターで唯一の配合例である化粧水の中で、本成分がどんな成分と並んでいるかです。
1. イソステアリン酸ソルビタンの基本
1.1 何の成分か
ソルビタンは、糖アルコールのソルビトールから水1分子を取り除いてできる環状のエーテル型多価アルコールの総称です(出典: CIR 2002)。このソルビタンに残る水酸基の1つに、脂肪酸をエステル結合させたものがソルビタン脂肪酸エステルで、ソルビタン部分が水になじむ頭、脂肪酸の炭素鎖が油になじむ尾になります。
米国のCosmetic Ingredient Review(CIR)は、本成分を「イソステアリン酸と、ソルビトール由来のヘキシトール無水物のモノエステル」と定義し、化粧品での機能を界面活性剤-乳化剤としています(出典: CIR 2002)。同報告書に記載されたCAS番号は54392-26-6です。日本の医薬部外品の成分表示名称リストでも、本質は「主として『イソステアリン酸』とソルビタンからなるモノエステル」とされています(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版 連番2374)。
ただし、名前がモノエステルでも中身が1種類の分子とは限りません。CIR 2002年報告書が引く市販品のHPLC分析では、本成分はモノエステル44%・ジエステル33%・トリエステル23%の混合でした(出典: CIR 2002)。部外品リストの本質欄が「主として」と書くのも、この幅を含んだ定義と読めます。ソルビタン脂肪酸エステル類は一般に、ろう状の固体か粘性のある液体です(出典: CIR 2002)。本成分は25℃で液状の原料として流通しています(出典: Croda『Span 120』)。
脂肪酸側のイソステアリン酸は、炭素数18・二重結合0の分岐鎖飽和脂肪酸です(出典: 化粧品成分オンライン『イソステアリン酸』)。詳しい性質はイソステアリン酸の記事で扱っており、本記事では§3.4でオレイン酸との差に絞って見ます。
規制上は、医薬部外品の有効成分ではない添加成分です。化粧品にも医薬部外品にも配合されうる乳化剤で、本成分そのものに承認された効能はありません。日本では医薬部外品原料規格2021に収載されています(出典: 化粧品成分オンライン)。
1.2 どんな製品に配合されるか
化粧品成分オンラインは、配合される製品としてメイクアップ、化粧下地、日焼け止め、スキンケア、ボディケア、ハンドケア、マスクを挙げています(出典: 化粧品成分オンライン)。原料メーカーのCrodaは、同社の本成分原料について、保護クリーム・ベビーケア・汎用エモリエントクリームのW/O乳化剤のほか、物理的日焼け止め(粉体の紫外線散乱剤を使うもの)やメイクアップ製品の湿潤・分散剤という用途を示しています(出典: Croda『Span 120』)。CIR 2002年報告書にも、クリームで顔料の分散剤として使われるという報告が載っています(出典: CIR 2002)。
DappNotesの商品マスター(132製品)で本成分を確認できたのは、化粧水の1製品だけです(出典: DappNotes 商品マスター集計)。
| 商品 | 区分 | 剤形 | 表示名 | 配合順位/全成分数 |
|---|---|---|---|---|
| ギャツビー EXパーフェクトローション | 化粧品 | 化粧水 | イソステアリン酸ソルビタン | 12/26 |
(出典: マンダム公式サイトの全成分表示)
この化粧水で本成分の前後に並ぶのは次の成分です。
| 表示順 | 成分 | 処方上の役割の目安 |
|---|---|---|
| 3 | エタノール | 溶剤 |
| 7 | トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル | 油性成分(エモリエント) |
| 8 | (アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー | 増粘・乳化安定 |
| 9・10 | PEG-20水添ヒマシ油・PEG-50水添ヒマシ油 | 可溶化(親水性のノニオン) |
| 11 | プルラン | 皮膜形成 |
| 12 | イソステアリン酸ソルビタン(本成分) | 乳化(親油性のノニオン) |
| 13 | 水酸化K | 増粘ポリマーの中和 |
| 19 | カプリル酸グリセリル | 防腐補助・乳化 |
| 20 | トリラウレス-4リン酸 | 乳化・洗浄補助 |
| 26 | 香料 | 着香 |
(出典: マンダム公式サイトの全成分表示。役割はDappNotes商品マスターの整理)
成分表から読める範囲では、水に溶けない成分として油性成分のトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルと香料が入り、それを水の多い処方に置くために、親水性の可溶化剤(PEG水添ヒマシ油2種)、親油性の本成分、リン酸系の界面活性剤、増粘ポリマーが並ぶ構成です。本成分は、親水性の高い界面活性剤と組み合わせて油と水のなじませ方を調整する役として入っている、と読むのが自然です。ただしメーカーは処方意図を公表しておらず、本成分がどの油を主に受け持っているかは成分表からは特定できません。
化粧品の成分表示は、配合量1%を超える成分は多い順、1%以下は順不同で書けます。12位という位置から配合量%は読み取れません。
1.3 メンズ視点での見方
本成分がメンズ製品で目に入るのは、今回の例のようなオールインワン系の化粧水や乳液、日焼け止めなど、油と水を1本にまとめる製品です。
読み方の要点は、本成分を「肌に何かをする成分」ではなく「製品を1本の状態に保つ成分」として見ることにあります。とろみのある化粧水に油性成分が分離せずに入っているのは、こうした乳化剤・可溶化剤・増粘ポリマーの組み合わせによるものです。成分表に本成分があるかどうかで、保湿の手応えや肌への合い方が決まるわけではありません。
2. 期待される働き・効果
2.1 メカニズム
乳化剤は、水になじむ部分と油になじむ部分を1分子に持ち、水と油の境目に並んで両者をつなぎます。どちらになじむ部分が強いかを表す目安がHLB(親水性-親油性バランス)で、数値が小さいほど油寄り、大きいほど水寄りです。一般に、HLBの低い乳化剤は油の中に水滴を分散させるW/O型、高い乳化剤は水の中に油滴を分散させるO/W型や可溶化に向きます。
本成分の親水部はソルビタンの水酸基だけで、EO(酸化エチレン)の鎖を持ちません。これに対して油になじむ部分は炭素数18の脂肪酸鎖で、分子全体として油寄りになります。化粧品成分オンラインは本成分の配合目的を親油性乳化としており、HLBについては原料カタログの値として4.7(Croda)、5.0(日光ケミカルズ)、8.0(日本エマルジョン)を併記しています(出典: 化粧品成分オンライン・二次)。値に幅があるのは、原料ごとにモノ・ジ・トリエステルの比率や算出方法が異なりうるためと考えられますが、各社の算出条件は本稿では確認できていません。いずれにしても、HLB 15.0のポリソルベート80(出典: Croda Pharma 技術資料)のような親水性の界面活性剤とは反対側に位置します。
役割は2つに分けると整理しやすくなります。
1つ目は、W/O乳化の主乳化剤です。Crodaは本成分原料をW/O乳化剤として位置づけています(出典: Croda『Span 120』)。油が外側になるW/O型は、クリームや日焼け止めなどで使われる形です。
2つ目は、O/W系での補助乳化です。水が外側になる化粧水・乳液では、親水性の乳化剤だけでは油滴の界面が安定しにくい場合があり、親油性の乳化剤を少量組み合わせてバランスを取る設計が一般に行われます。ソルビタン脂肪酸エステルと、それにEOを付加したポリソルベート類を混ぜて必要なHLBに合わせる手法は、Crodaの技術資料でもオレイン酸ソルビタンとポリソルベート80の組み合わせで示されています(出典: Croda Pharma 技術資料)。前述の化粧水で、親水性のPEG水添ヒマシ油と本成分が同じ処方に並ぶのも、この組み合わせ方と整合します。
このほか、粉体を油になじませる湿潤・分散剤としての働きもあります(出典: Croda『Span 120』 / CIR 2002)。日焼け止めやファンデーションで、酸化チタンなどの粉体をムラなく分散させる用途です。
2.2 一般的な効能範囲
本成分は乳化・分散を担う添加成分で、医薬部外品の有効成分ではありません。配合された化粧品の効能表現は、製品全体として「肌を整える」「皮膚にうるおいを与える」「皮膚の乾燥を防ぐ」といった化粧品の効能の範囲にとどまり、それを本成分の働きとして示すことはできません。
乳化剤は、油性成分を肌の上に均一にのせる土台をつくる成分です。油性成分が肌表面をなめらかに整えたり、水分の蒸発を防ぐ油膜をつくったりする働きは、主に乳化されている油の側によるもので、本成分そのものの効果ではありません。
2.3 限界・誤解されやすい点
誤解されやすい点は3つあります。
1. 界面活性剤だから洗浄成分で、肌の油を奪う、という誤解。 界面活性剤には洗浄に使うものと、乳化・分散に使うものがあります。本成分は親油性が強く、水に溶かして泡立てて汚れを落とす種類の成分ではありません。CIRも、ソルビタンエステル類の大半を界面活性剤-乳化剤として分類しています(出典: CIR 2019)。
2. HLBの数値で乳化剤の優劣が決まる、という誤解。 HLBは水寄りか油寄りかの目安で、良し悪しの指標ではありません。本成分のHLBは原料によって値に幅があり、使用感や製品の安定性は、組み合わせる乳化剤・油の種類・増粘剤・製造条件を含めた処方全体で決まります。
3. 酸化しにくい脂肪酸を使っているから肌にも良い、という誤解。 分岐飽和脂肪酸のイソステアリン酸がオレイン酸より化学的に安定であることは(§3.4)、原料や製品の色・においが変わりにくいという処方上の性質です。肌への効果や刺激の少なさを直接示すものではありません。
3. 安全性・注意点
3.1 既知の刺激性・アレルギー報告
米国CIRは、2002年に本成分を含む10種のソルビタン脂肪酸エステルを評価し、現行の使用実態で化粧品に安全と結論しました(出典: CIR 2002)。2019年には、1985年と2002年に評価した成分に新たな3成分を加えた計20種のソルビタンエステルをまとめて再評価し、現行の使用実態と濃度で化粧品に安全と結論しています(出典: CIR 2019)。
CIR 2002年報告書に記載された本成分のデータは、条件によって結果が分かれています。
- ヒトの皮膚刺激: 10%の本成分について、56名の24時間閉塞パッチ試験で刺激なし
- 動物の皮膚刺激(低濃度): 10%でウサギの正常皮膚・擦過皮膚とも刺激なし〜弱い刺激
- 動物の皮膚刺激(原液): 原液をウサギ皮膚に24時間閉塞適用した1試験では中等度の刺激。モルモットへの皮内注射では軽度〜重度の刺激
- 感作性: 最大100%までの濃度でモルモットの感作性は低い
- 眼刺激: 10%でウサギの眼に刺激なし
(出典: CIR 2002)
原液の閉塞適用や皮内注射は、化粧品に数%以下で配合され肌に塗る使い方とは条件が大きく異なります。CIRはこうしたデータを踏まえたうえで、化粧品での使用を安全と判断しています。
日本語の整理では、化粧品成分オンラインが皮膚刺激性・皮膚感作性をほとんどなし、眼刺激性を非刺激〜最小限とし、使用実績を20年以上としています(出典: 化粧品成分オンライン)。
「界面活性剤は危険」「経皮毒」といった言説もありますが、界面活性剤は洗浄用・乳化用・可溶化用で性質も配合量も大きく異なり、ひとまとめに危険と判断する根拠にはなりません。一方で、安全と評価された成分でも個人の肌との相性はあり、製品には香料・エタノール・防腐剤なども含まれます。使用して赤み・かゆみ・ひりつきが出た場合は使用を中止し、原因を本成分に限らず処方全体で考えるのが現実的です。
なお、本成分はEOを付加していない成分です。EO付加型の界面活性剤で論点になる製造副生物の1,4-ジオキサンは、ポリソルベート類など同じ骨格のEO付加型で扱われる話で、本成分の構造には当てはまりません。
3.2 推奨配合量と過剰使用時のリスク
化粧品での配合量に法的な一律上限は設けられていません。CIR 2002年報告書は、1984年時点での本成分の使用濃度を1〜5%と記載し、ソルビタン脂肪酸エステル類全体では最大25%の報告があるものの、多くは10%未満で使われるとしています(出典: CIR 2002)。
実際の配合量は、乳化の型(W/OかO/Wか)、主乳化剤か補助乳化剤か、油の量によって処方ごとに決まります。前述の化粧水のように成分表の中ほどに並んでいても、表示順から配合量%を推定することはできません。
乳化剤の配合が多すぎる場合に一般に考えられるのは、使用感の変化(べたつき・重さ)や、乳化の安定性の崩れです。これは本成分に限らず、乳化剤全般に共通する処方バランスの問題です。
3.3 ソルビタン骨格のHLBのはしごで位置を読む
商品マスターでは、ソルビタン系の成分に「乳化(ソルビタン系ノニオン)」「乳化・可溶化(ノニオン)」といった役割名が付くだけで、互いの違いは見えません。しかし同じソルビタン骨格でも、次の3つの違いで性格が親油側から親水側まで並びます。
- EO(酸化エチレン)を付けるか: 付けない成分は親油側、付けるほど親水側に寄る
- 脂肪酸が何本付くか: モノエステルか、モノとジの混合(セスキ)か、トリエステルか
- どの脂肪酸か: 直鎖か分岐か、飽和か不飽和か、炭素数はいくつか
これらの乳化剤でつながれる油の側も、炭化水素油とエステル油で系統が分かれます。
| 成分 | 骨格 | 脂肪酸 | EO付加 | 親油・親水の側 | 成分表での出方(DappNotes) |
|---|---|---|---|---|---|
| イソステアリン酸ソルビタン(本成分) | ソルビタンのモノエステル(主体) | イソステアリン酸(C18・分岐・飽和) | なし | 親油側(HLBはカタログ値4.7〜8.0と幅・二次) | 化粧水1品に単独名 |
| オレイン酸ソルビタン | ソルビタンのモノエステル | オレイン酸(C18・直鎖・不飽和) | なし | 親油側(HLB 4.3) | 増粘ポリマー原料と並ぶジェル3品 |
| セスキオレイン酸ソルビタン | モノ・ジエステルの混合 | オレイン酸 | なし | 親油側 | 1品に単独名 |
| オレイン酸PEG-6ソルビタン | PEGソルビタンエステル | オレイン酸 | 平均6モル | 中間 | 本クラスタの集計対象外 |
| ポリソルベート80 | POEソルビタンのモノエステル | オレイン酸 | 平均20モル | 親水側(HLB 15.0) | 単独名7品+部外品の連結名2品 |
| ポリソルベート20 | POEソルビタンのモノエステル | ラウリン酸(C12・直鎖・飽和) | 平均20モル | 親水側(可溶化向き) | 本クラスタの集計対象外 |
| トリイソステアリン酸PEG-160ソルビタン | PEGソルビタンのトリエステル | イソステアリン酸 | 平均160モル | 親水側 | 本クラスタの集計対象外 |
| イソヘキサデカン | 炭化水素油(乳化剤ではない) | ― | ― | つながれる油の側 | 増粘ポリマー原料と並ぶジェル3品+部外品の連結名2品 |
| トリエチルヘキサノイン | エステル油(乳化剤ではない) | 2-エチルヘキサン酸 | ― | つながれる油の側 | 化粧品名5品+部外品名3品 |
(出典: HLB 4.3・15.0はCroda Pharma 技術資料。本成分のHLBは化粧品成分オンライン・二次。成分表での出方はDappNotes 商品マスター集計)
この表での本成分の位置は「EOを付けない親油側」のグループで、オレイン酸ソルビタン・セスキオレイン酸ソルビタンと並びます。この3つの違いは、脂肪酸がオレイン酸かイソステアリン酸か、エステルの本数がモノ主体かモノとジの混合かにあります。
同じイソステアリン酸を使うトリイソステアリン酸PEG-160ソルビタンとは、脂肪酸は共通でも、EOを平均160モル付けている点で反対側に立ちます。日本の医薬部外品リストには、本成分に酸化エチレンを平均20モル付加重合した「イソステアリン酸POE(20)ソルビタン」も別の成分として載っています(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版 連番191)。同じ脂肪酸でも、EOの有無と量で親油から親水まで性格が変わることが、名称リストの並びからも確認できます。
成分表での出方にも違いがあります。オレイン酸ソルビタンやポリソルベート80は、増粘ポリマーを油に分散させた原料(プレミックス)と同じ並びで現れる商品があります。本成分にもプレミックスの構成成分として使われる例があり、配合データベースCM Studio+では、SEPPICの増粘ポリマー原料「SEPIPLUS 400」の構成が「Polyacrylate-13 (and) Polyisobutene (and) Polysorbate 20 (and) Water (and) Sorbitan Isostearate」と掲載されています(出典: CM Studio+・二次)。ただしこれは原料の商品名として流通する例で、表示粒度は資料によって異なりえます。DappNotesで本成分を配合する化粧水の全成分には、この原料を構成するポリアクリレート-13・ポリイソブテン・ポリソルベート20はいずれも並ばないため、この例は同商品の処方とは関係がありません。
ここで注意したいのは、はしごの位置から乳化剤の優劣を導かないことです。親油側と親水側は役割の違いで、どれが「良い乳化剤」かは処方の目的と組み合わせで変わります。表は優劣表ではなく、成分表を読むときの地図として使ってください。
3.4 オレイン酸ではなくイソステアリン酸を使う意味
親油側の3成分のうち、本成分だけが脂肪酸にイソステアリン酸を使っています。オレイン酸とイソステアリン酸は、どちらも炭素数18の脂肪酸ですが、形が違います。
| 脂肪酸 | 炭素数:二重結合 | 鎖の形 | 常温の状態 | 化学的な安定性 |
|---|---|---|---|---|
| オレイン酸 | 18:1 | 直鎖・不飽和 | 液体 | 二重結合を持つ |
| イソステアリン酸 | 18:0 | 分岐・飽和 | 液体(タイター3〜9℃) | オレイン酸より化学的に安定 |
| ステアリン酸(参考) | 18:0 | 直鎖・飽和 | 固体 | 飽和 |
(出典: 化粧品成分オンライン『イソステアリン酸』)
化粧品成分オンラインは、イソステアリン酸を炭素数と二重結合の数が18:0の分枝鎖飽和脂肪酸とし、18:1のオレイン酸よりも化学的に安定で、直鎖飽和のステアリン酸より融点が低く、液体で酸化安定性に優れると整理しています(出典: 化粧品成分オンライン『イソステアリン酸』)。
2つの性質を分けて見ると、違いがはっきりします。
飽和であること。 脂肪酸の酸化は主に炭素どうしの二重結合の周辺で進みます。オレイン酸は二重結合を1つ持つのに対し、イソステアリン酸は二重結合を持たないため、酸化されにくくなります。
分岐していること。 飽和の脂肪酸は、直鎖のステアリン酸のように炭素鎖がそろって並びやすく、常温で固体になります。イソステアリン酸は炭素鎖に枝分かれがあるため結晶化しにくく、飽和でありながら液体を保ちます。Crodaの本成分原料が25℃で液状とされているのも(出典: Croda『Span 120』)、この脂肪酸の性質と整合します。
つまりイソステアリン酸は、液状を保つという点ではオレイン酸に近く、酸化されにくいという点ではステアリン酸に近い脂肪酸です。乳化剤の脂肪酸側にこれを使うことは、液状で扱いやすく、原料や製品の色やにおいが変わりにくい乳化剤を選ぶ、という処方上の選択と読めます。
ただし、ここから言えるのは原料の安定性の話までです。オレイン酸ソルビタンを使う処方の製品が変質しやすいと言えるわけではなく、製品の安定性は酸化防止剤・容器・保管条件も含めて決まります。使用感や肌への合い方の優劣を、脂肪酸の違いから推測することもできません。
3.5 化粧品と医薬部外品で表示名が切り替わる
同じ成分でも、化粧品と医薬部外品では成分表示に使う名前の体系が異なります。手元で確認した日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』(平成20年版)では、本成分は次のように載っています(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版)。
| 連番 | 部外品表示名称 | 簡略名 | 本質(リストの記載) |
|---|---|---|---|
| 2374 | モノイソステアリン酸ソルビタン | イソステアリン酸ソルビタン | 主として「イソステアリン酸」とソルビタンからなるモノエステル |
| 1265 | セスキイソステアリン酸ソルビタン | ― | 主としてイソステアリン酸とソルビタンのモノ及びジエステルの混合物 |
本成分に対応するのは連番2374です。部外品では「モノイソステアリン酸ソルビタン」の名前が使われ、簡略名として化粧品表示名と同じ「イソステアリン酸ソルビタン」も載っています。
取り違えやすいのが連番1265の「セスキイソステアリン酸ソルビタン」です。「セスキ」は1.5を意味し、モノエステルとジエステルの混合物を指す別の成分です。CIRでもSorbitan IsostearateとSorbitan Sesquiisostearateは別の成分として評価されています(出典: CIR 2002)。成分表に「セスキ」が付いているかどうかで、別の成分と読み分けてください。
なお手元のリストは2008年版のため、現行版での収載状況は別に確認が必要です。
4. 相性の良い・悪い成分
4.1 併用される成分
本成分は親油性の乳化剤なので、単独よりも性格の違う成分と組み合わせて使われます。
親水性の乳化剤・可溶化剤: O/W系では、ポリソルベート類やPEG水添ヒマシ油のような親水性のノニオン界面活性剤と組み合わせて、処方に必要な親水・親油のバランスをつくります。DappNotesの配合例では、PEG-20水添ヒマシ油・PEG-50水添ヒマシ油と同じ処方に並んでいます。親水性の可溶化剤の例としてはポリソルベート20やPEG-40水添ヒマシ油の記事も参照してください。
油性成分: 乳化される側の油です。配合例ではトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルが並びます。
増粘ポリマー: 乳化した状態を粘度で支える成分です。配合例では(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマーと、その中和剤の水酸化K、キサンタンガムが入っています。
粉体: 日焼け止めやメイクアップでは、酸化チタンなどの粉体を油になじませる分散剤として同じ処方に入ります(出典: Croda『Span 120』)。
4.2 注意したい組合せ
本成分について、化粧品処方で避けるべき組み合わせは、本稿で確認した資料では報告されていません。
実用上の注意は、成分どうしの相性より次の点にあります。
- 乳化の型と合っているか: 親油性の本成分は、W/O型では主役、O/W型では補助の立場になります。これは処方設計側の話で、使う側が成分表から判断する必要はありません
- 製品全体の刺激: 本成分より、同じ製品に入るエタノール・香料・防腐剤などの方が、人によっては刺激の原因として気になりやすい成分です
5. 使い方
5.1 推奨される使用シーン
本成分は乳化剤なので、成分単位で使い方を選ぶものではありません。配合される製品の標準的な使い方に従えば十分です。
オールインワン系の化粧水・乳液: 油性成分を分離させずに1本にまとめる役です。洗顔後やひげ剃り後に、製品の表示どおりの量を肌になじませます。乾燥を感じる場合は、乳液やクリームを重ねるかどうかを使いながら判断します。
日焼け止め・化粧下地・メイクアップ: 油と水、粉体をまとめる役として入ることがあります。これらは塗りムラが出ないように、製品の表示どおりの量を均一に伸ばすことが大切です。
5.2 期待できないこと・避けるべき使い方
本成分に期待できないことは次のとおりです。
- 肌への保湿・整肌の働き: 本成分は油と水をなじませる成分で、それ自体が肌をうるおす成分ではありません
- 肌荒れ・ニキビ・バリア機能の改善: 有効成分ではなく、これらの効能を本成分の働きとして期待することはできません
- 酸化しにくさを肌への良さと読み替えること: 分岐飽和脂肪酸の安定性は原料や製品の変質しにくさの話です
避けたいのは、「界面活性剤が入っているから避ける」「酸化しにくい成分だから安心」のように、成分名の印象だけで製品を判断することです。製品が合うかどうかは処方全体と自分の肌で決まります。
6. メンズ実用視点まとめ
メンズの成分表示でイソステアリン酸ソルビタンを見かけたら、次の3点で読むと整理しやすくなります。
- 油と水をつなぐ裏方: 親油性の乳化剤で、オールインワン系の化粧水などで油性成分を1本にまとめる役です。肌に直接働きかける成分ではありません
- オレイン酸ソルビタンとの違いは脂肪酸: 分岐した飽和脂肪酸を使うため、液状を保ちつつ酸化されにくい原料です。ただしそれは処方の安定性の話で、使用感の優劣ではありません
- 表示名は部外品で変わる: 医薬部外品では「モノイソステアリン酸ソルビタン」と書かれます。「セスキイソステアリン酸ソルビタン」は別成分です
オールインワン系の製品を選ぶときに見るべきなのは、本成分の有無より、香料やエタノールの有無、油性成分の量が自分の乾燥の感じ方に足りるか、といった製品全体の設計です。
7. よくある質問(FAQ)
Q1. イソステアリン酸ソルビタンはどんな働きをする成分ですか?
親油性の乳化剤です(出典: 化粧品成分オンライン / Croda)。ソルビタンとイソステアリン酸のエステルで、油の中に水を分散させるW/O乳化の乳化剤として使われるほか、親水性の乳化剤と組み合わせた補助乳化や、日焼け止め・メイクアップでの粉体の分散にも使われます。本成分そのものが肌をうるおしたり整えたりする成分ではありません。
Q2. 「モノイソステアリン酸ソルビタン」「セスキイソステアリン酸ソルビタン」とは同じ成分ですか?
モノイソステアリン酸ソルビタンは同じ成分で、医薬部外品での表示名称です。セスキイソステアリン酸ソルビタンは別の成分です(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版)。2008年版の部外品リストでは、連番2374の「モノイソステアリン酸ソルビタン」の簡略名が「イソステアリン酸ソルビタン」で、本質はイソステアリン酸とソルビタンのモノエステルです。連番1265の「セスキイソステアリン酸ソルビタン」は、モノエステルとジエステルの混合物として別に載っています。
Q3. オレイン酸ソルビタンとは何が違いますか?
違いは脂肪酸の側です。オレイン酸ソルビタンは直鎖で二重結合を1つ持つオレイン酸、本成分は分岐した飽和脂肪酸のイソステアリン酸を使います。イソステアリン酸はオレイン酸より化学的に安定で、分岐のため飽和でも液体を保ちます(出典: 化粧品成分オンライン『イソステアリン酸』)。どちらもEOを付加しない親油側の乳化剤で、使用感や安定性の優劣は処方全体で決まります。詳しくはオレイン酸ソルビタンの記事を参照してください。
Q4. 界面活性剤なので、肌の油分を奪ったり刺激になったりしませんか?
本成分は洗浄に使うタイプの界面活性剤ではなく、親油性の乳化剤です。米国CIRは2002年と2019年の評価で、本成分を含むソルビタンエステル類を現行の使用実態で化粧品に安全と結論しています(出典: CIR 2002 / CIR 2019)。ヒトで10%を24時間閉塞パッチした試験では刺激なしとされています。一方、原液を動物の皮膚に閉塞適用した試験では中等度の刺激も記録されており、条件によって結果は異なります。製品が合わないと感じたら使用を中止してください。
Q5. イソステアリン酸ソルビタンが入っている化粧水は、乳液の代わりになりますか?
本成分の有無では判断できません。本成分は油性成分を1本にまとめる役で、乳液の代わりになるかどうかは、油性成分の種類と量、製品全体の設計、自分の乾燥の感じ方で決まります。使ってみて乾燥が気になれば、乳液やクリームを重ねてください。
Q6. イソステアリン酸とはどういう関係ですか?
イソステアリン酸は本成分の脂肪酸側の原料です。イソステアリン酸そのものは遊離脂肪酸で、油性基剤や分散剤として使われます。これをソルビタンとエステル結合させたものが本成分で、ソルビタンが水になじむ部分になるため乳化剤として働きます。
8. まとめ
イソステアリン酸ソルビタンは、ソルビトール由来のソルビタンに分岐飽和脂肪酸のイソステアリン酸を結合させた、EOを持たない親油性の非イオン界面活性剤です。W/O乳化の乳化剤、O/W系での補助乳化剤、粉体の分散剤として使われます(出典: 化粧品成分オンライン / Croda / CIR 2002)。名前はモノエステルでも、市販品はモノ・ジ・トリエステルの混合として分析されています。
ソルビタン骨格のはしごで見ると、本成分はオレイン酸ソルビタン・セスキオレイン酸ソルビタンと同じ親油側に立ち、EOを付けたポリソルベート80やトリイソステアリン酸PEG-160ソルビタンとは反対側に位置します。オレイン酸ソルビタンとの違いは脂肪酸で、分岐飽和のイソステアリン酸は液状を保ちつつオレイン酸より化学的に安定です。ただしこれは原料の安定性の話で、乳化剤としての優劣や肌への良し悪しを示すものではありません。
化粧品表示名は「イソステアリン酸ソルビタン」、医薬部外品表示名は「モノイソステアリン酸ソルビタン」で、「セスキイソステアリン酸ソルビタン」は別成分です。CIRは現行の使用実態で安全と評価しています。DappNotesでの配合例はオールインワン系化粧水の1品で、油性成分を1本にまとめる裏方として、親水性の可溶化剤や増粘ポリマーと並んで入っています。