セスキオレイン酸ソルビタンは、ソルビトールを脱水したソルビタンにオレイン酸がエステル結合した非イオン界面活性剤で、INCI名はSorbitan Sesquioleate、化粧品表示名称と医薬部外品表示名称はどちらも「セスキオレイン酸ソルビタン」である(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版 / 花王ケミカル)。酸化エチレン(EO)を付加していない、油になじみやすい側の乳化剤で、HLBは花王ケミカルとCrodaの資料で3.7とされる(出典: 花王ケミカル / Croda Pharma)。HLBの値は原料によって異なり、別の値を示す資料もある(§2.1)。
本記事では、ソルビタン系乳化剤と油剤のクラスタの1本として3点を整理する。1点目は名前の読み方で、「セスキ」がモノエステルとジエステルの混合を表し、オレイン酸ソルビタンとは別の成分として扱われる理由である。2点目は、同じソルビタン骨格の成分を親油から親水まで並べたときの位置である。3点目は、この成分が皮膚科のパッチテスト(皮膚貼付試験)の試料に乳化剤として入っているという、化粧品とは別の場面での顔である。DappNotes の商品マスターで配合を確認できたのは化粧水1品のため、その並びも読む。
1. セスキオレイン酸ソルビタンの基本
1.1 何の成分か
骨格になるソルビタンは、糖アルコールのソルビトール(ブドウ糖を還元したもの)から水が抜けて環を作ったものである。水酸基(-OH)が残っているため、ここが水になじむ部分になる。そこへ炭素18の不飽和脂肪酸であるオレイン酸がエステル結合し、油になじむ部分になる。1分子の中に水になじむ頭と油になじむ尾を持つので、水と油の境目に並んで両者をつなぐ。
医薬部外品の成分表示名称リストは本質を「主として『オレイン酸』とソルビタン及びソルバイドのジエステル及びモノエステルからなる」と書いている(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版 連番1268)。ソルバイドは、ソルビトールからさらに水が抜けて環が2つになったものである。つまり骨格の側も1種類ではなく、脱水の程度が違うものを含む。医薬部外品原料規格2021の各条も同じ本質で、性状を「微黄色〜黄色の液」としている(出典: 医薬部外品原料規格2021)。
CAS番号は8007-43-0である(出典: 花王ケミカル)。単一の化合物ではないため、分子式や分子量は1つに決まらない。電荷を持たない非イオン(ノニオン)型で、強い洗浄を担う陰イオン界面活性剤とは役割が異なる。
規制上は有効成分ではない添加成分である。医薬部外品の処方にも配合できるが、その場合も有効成分ではなく「その他の成分」として入る。本成分それ自体に承認効能はない。
1.2 「セスキ」の読み方
「セスキ」は「1と2分の1(1.5)」を表す接頭語である。セスキオレイン酸ソルビタンは、ソルビタン1に対してオレイン酸が平均1.5の割合で付いたもの、という意味の名前になる(出典: 化粧品成分オンライン〔二次〕)。
ただし、1分子にオレイン酸が1.5本付くわけではない。脂肪酸が1本付いたモノエステルと2本付いたジエステルが混ざっていて、平均するとおよそ1.5になる、という読み方をする。成分表示名称リストの本質欄が「ジエステル及びモノエステルからなる」と両方を書いているのは、この混合を表すためと読める。化粧品成分オンラインは、実際の原料には未反応物やトリエステル以上も含まれる複雑な混合物だと補足している(出典: 化粧品成分オンライン〔二次〕)。
この読み方を知ると、似た名前の成分を区別できる。
| 表示名称 | 成分表示名称リストの本質(要旨) | 脂肪酸の付き方 |
|---|---|---|
| セスキオレイン酸ソルビタン(本成分) | オレイン酸とソルビタン及びソルバイドのジエステル及びモノエステル | モノ+ジの混合(平均1.5) |
| オレイン酸ソルビタン | オレイン酸とソルビタンからなるモノエステル | 主にモノ(1本) |
| セスキイソステアリン酸ソルビタン | イソステアリン酸とソルビタンのモノ及びジエステルの混合物 | モノ+ジ(脂肪酸が別) |
| イソステアリン酸ソルビタン | イソステアリン酸とソルビタンからなるモノエステル | 主にモノ(脂肪酸が別) |
(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版 連番1268・2383・1265・2374)
同じオレイン酸でも、主にモノエステルならオレイン酸ソルビタン、モノとジの混合ならセスキオレイン酸ソルビタンと、表示名が分かれる。成分表の「セスキ」は、脂肪酸の付き方が違う別の原料だという目印になる。
1.3 どんな製品に配合されるか
化粧品では、メイクアップ、ファンデーション、日焼け止め、コンシーラー、マスク、ボディケア・ハンドケアといった製品に配合されると整理されている(出典: 化粧品成分オンライン〔二次〕)。原料メーカーの花王ケミカルは、用途を医薬・化粧品用の乳化剤と、潤滑油の油性剤としている(出典: 花王ケミカル)。
化粧品の外でもよく使われる。日本薬局方データベースには「ソルビタンセスキオレイン酸エステル」の名前で掲載があり、医薬品の添加物としての規格を持つ(出典: 日本薬局方データベース)。皮膚科の外用薬の乳化剤としても使われ、皮膚科領域の報告には、外用ステロイド剤によく使われる乳化剤として本成分を取り上げたものがある(出典: Asarch & Scheinman〔論文タイトル〕)。さらに、皮膚科で接触皮膚炎の原因を調べるパッチテストの試料にも乳化剤として入っている(§5.2)。
原料の形でも、単体とは限らない。医薬部外品原料規格2021には、クエン酸エステル・ミツロウなどと本成分を約35%含む混合物の規格が別に立っている(出典: 医薬部外品原料規格2021「ペンタエリトリトールクエン酸高級脂肪酸エステル・ミツロウ・ノニオン乳化剤混合物」)。こうした混合原料を使った場合、成分表では本成分が他の成分と別行で並ぶことになる。
DappNotes の商品マスター(132製品)で本成分の配合を確認できたのは、化粧水1品だけである(§4)。
2. 期待される働き・効果
2.1 メカニズム
乳化剤の性格を1つの数字で表す目安が HLB(親水性と親油性のバランス)である。値が小さいほど油になじみやすく、大きいほど水になじみやすい。値の小さい乳化剤は、油を外側(連続相)にして水滴を包む W/O(油中水型)の乳化に、値の大きい乳化剤は、水を外側にして油滴を包む O/W(水中油型)の乳化や、少量の油を水に溶かし込む可溶化に使われる。
セスキオレイン酸ソルビタンの HLB は、花王ケミカルの製品情報でも Croda の技術資料でも3.7とされている(出典: 花王ケミカル / Croda Pharma)。Croda の同じ表では、主にモノエステルのオレイン酸ソルビタンが4.3、脂肪酸が3本付いたトリオレイン酸ソルビタンが1.8で、本成分はその間に入る(出典: Croda Pharma)。脂肪酸(油になじむ尾)の本数が増えるほど親油側に寄る、という並びと整合する。
ただし、HLB の値は原料メーカーによって異なる。二次情報の化粧品成分オンラインは、3.7(花王・Croda)のほかに4.0(日光ケミカルズ)や6.0(日本エマルジョン)とする原料もあると並べており、資料によって3.7〜6.0の幅がある(出典: 化粧品成分オンライン〔二次〕)。モノとジの比率や原料の組成が製品ごとに違う混合物であることを考えると、数値は「親油側の乳化剤」という位置を示す目安として読むのが適切である。
使い方について、花王ケミカルは「単独で W/O 乳化を形成し、親水性の界面活性剤と組み合わせると O/W 乳化にも使える」という趣旨を説明している(出典: 花王ケミカル)。HLB の低い乳化剤と高い乳化剤を組み合わせて、処方に合ったバランスを作るのは乳化処方の定石である。つまり本成分は、W/O クリームのような油が外側の製品だけでなく、水が外側の製品に親水性の乳化剤と一緒に入ることもある。
2.2 一般的な効能範囲
本成分の役割は、水と油をなじませて製品の状態を保つという処方上のものである。肌そのものに働きかける成分ではないため、本成分の働きとして「うるおいを与える」「肌荒れを防ぐ」といった効能を示すことはできない。配合された製品の効能は、化粧品であれば化粧品の効能の範囲で、製品全体として表現される。
乳化によって油分を含む処方が成り立つと、その油分が肌表面に薄い膜をつくり、なめらかな感触につながることはある。ただしそれは油剤や処方全体の話で、乳化剤そのものの効果として読むものではない。
2.3 限界・誤解されやすい点
誤解されやすい点は3つある。
1. 「セスキ」の数字を分子の形と読む誤解。 §1.2 のとおり、1.5はモノエステルとジエステルが混ざった平均で、1分子ごとの形ではない。原料の組成は製品ごとに幅があり、HLB の値がメーカーによって違う一因とも考えられる。
2. HLB が低いから重い・油っぽい製品になる、という誤解。 HLB は乳化剤の性格を示す目安で、製品の使用感を決める数字ではない。本成分は親水性の乳化剤と組み合わせて水が外側の製品にも使われる(§2.1)。どの乳化剤が「よい」か、製品がさっぱりするか重くなるかは、油の種類と量、他の乳化剤、増粘剤、粉体などを含めた処方全体で決まる。HLB の大小から性能の優劣を読まないことが大切である。
3. 界面活性剤だから洗浄成分、あるいは危険、という誤解。 本成分は泡立てて汚れを落とす成分ではなく、少量で水と油をなじませる非イオン型の乳化剤である。酸化エチレンを付加していないので、エトキシ化(EO付加)の副生成物として話題になる1,4-ジオキサンとは製法上の関係がない。一方で「安全な裏方だから誰にも反応は起きない」と振り切るのも正確ではなく、まれな接触アレルギーの報告がある(§5.2)。
3. ソルビタン骨格のはしごで位置を読む
商品マスターでは、本成分の役割は「乳化(ソルビタン系ノニオン)」の一語で済まされている。同じクラスタでは、ソルビタン骨格の乳化剤と、それにつながれる油剤を並べて読み分ける。
3.1 親油から親水までの並び
ソルビタン系の乳化剤は、同じソルビタンを土台に「どの脂肪酸が」「何本付くか」「酸化エチレン(EO)を付けるか」で性格が変わる。EO を付けない成分は親油側に、EO を多く付けた成分は親水側に寄る。
| 成分 | 骨格 | 脂肪酸 | EO付加 | 親油・親水の側 | 成分表での出方(商品マスター) |
|---|---|---|---|---|---|
| セスキオレイン酸ソルビタン(本成分) | ソルビタン(+ソルバイド) | オレイン酸・モノ+ジの混合 | なし | 親油(花王・Croda資料でHLB 3.7) | 化粧水1品に単独 |
| オレイン酸ソルビタン | ソルビタン | オレイン酸・主にモノ | なし | 親油(Croda資料でHLB 4.3) | ジェル・美容液3品、コポリマーやイソヘキサデカンの近くに並ぶ |
| イソステアリン酸ソルビタン | ソルビタン | イソステアリン酸(分岐・飽和)・主にモノ | なし | 親油 | 化粧水1品に単独 |
| オレイン酸PEG-6ソルビタン | ソルビタン | オレイン酸 | 平均6 | 中間 | ― |
| ポリソルベート80 | ソルビタン | オレイン酸 | 平均20 | 親水 | 単独7品+医薬部外品の連結名2品 |
| ポリソルベート20 | ソルビタン | ラウリン酸 | 平均20 | 親水(可溶化側) | ― |
| イソヘキサデカン(油剤) | ―(分岐炭化水素) | ― | ― | つながれる油(炭化水素) | 化粧品3品+医薬部外品の連結名2品 |
| トリエチルヘキサノイン(油剤) | ―(グリセリンのエステル油) | 2-エチルヘキサン酸×3 | ― | つながれる油(エステル) | 化粧品名5品+医薬部外品名3品 |
(出典: HLB は各資料での値〔本成分は花王ケミカル / Croda Pharma、オレイン酸ソルビタンは Croda Pharma〕で、原料によって値が異なる。成分表での出方は DappNotes 商品マスター集計。「―」はこのクラスタで集計していない、または該当しない)
この表での本成分の位置は、「EO を付けていない親油側の3成分」の1つで、その中でも脂肪酸がモノとジの混合で付いている点が特徴になる。同じオレイン酸のオレイン酸ソルビタンと並べると、脂肪酸の本数の平均が多いぶん、Croda の同じ表では HLB が少し低い(3.7と4.3)。同じオレイン酸にEOを平均20モル付けるとポリソルベート80になり、親水側の端に移る。
表は優劣表ではない。どの乳化剤を選ぶかは、目的の乳化の型、油の種類、他の成分との組み合わせで決まり、単独の数字で製品の良し悪しは判断できない。
3.2 成分表での出方は「同梱」か「単独」か
2層目の軸は、同じ成分が成分表にどう現れるかである。乳化剤は、処方者が単独で足す場合と、別の原料(プレミックス)の一部として最初から混ざって入る場合がある。
同じクラスタのオレイン酸ソルビタンは、商品マスターでは化粧品3品にしか現れず、3品とも増粘ポリマーの(アクリル酸Na/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー、炭化水素油のイソヘキサデカンと近い位置に並ぶ。ポリマーを油に分散させた逆相エマルション型の原料と整合する並びで、詳しくは(アクリル酸Na/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマーとオレイン酸ソルビタンの記事で扱う。ただし個別の商品がどの原料銘柄を使ったかは、成分表からは特定できない。
本成分についても、プレミックスとして供給される例は一次資料で確認できる。医薬部外品原料規格2021には、クエン酸エステル類約40%・本成分約35%・サラシミツロウ約20%・ステアリン酸アルミニウム約5%からなる混合物の規格がある(出典: 医薬部外品原料規格2021)。こうした混合原料を使えば、本成分は他の成分と一緒に成分表に入る。
一方、今回の配合例(§4)では、本成分の前後にこの混合物の構成成分(ミツロウ、ステアリン酸アルミニウムなど)は並んでいない。単独で配合されたのか、別の形の原料に含まれていたのかは、成分表からは判断できない。本記事では「商品マスター上は単独の1行として現れる」という事実にとどめる。
4. 配合商品の並び
4.1 化粧水1品の中での位置
DappNotes の商品マスター(132製品)で本成分の配合を確認できたのは次の1品である。
| 商品 | 区分 | 剤形 | 配合順位/全成分数 |
|---|---|---|---|
| クワトロボタニコ ボタニカル オイルコントロール & スキンコンディショナー S | 化粧品 | 化粧水(白く濁ったオールインワンタイプ) | 30/44 |
(出典: クワトロボタニコ公式オンラインショップの全成分表示 / DappNotes 商品マスター集計)
この製品は、化粧水でありながら炭酸Ca・マイカ・ヒドロキシアパタイト・酸化亜鉛といった粉体を含み、公式に「白く濁った」と説明されている。商品マスターの役割語で、乳化・分散に関わる成分と油性成分を表示順に抜き出すと次のようになる。
| 順位 | 成分 | 商品マスターの役割 |
|---|---|---|
| 18 | ミリスチン酸ポリグリセリル-10 | 乳化(ノニオン) |
| 22 | コメヌカ油 | エモリエント(植物油) |
| 24 | PEG-60水添ヒマシ油 | 乳化・可溶化(ノニオン) |
| 25 | ジフェニルジメチコン | エモリエント(シリコーン油) |
| 26 | トリエチルヘキサノイン | エモリエント(エステル油) |
| 29 | ジ(C12-15)パレス-8リン酸 | 乳化・洗浄補助(リン酸系) |
| 30 | セスキオレイン酸ソルビタン(本成分) | 乳化(ソルビタン系ノニオン) |
| 31〜33 | 炭酸Ca・マイカ・ヒドロキシアパタイト | 粉体 |
| 35 | 酸化亜鉛 | 粉体 |
| 36 | 水添レシチン | 乳化 |
| 44 | ココイルサルコシンNa | 乳化・分散補助(アニオン) |
(出典: DappNotes 商品マスター。役割は商品マスターでの整理)
乳化・分散に関わる成分が6つ並び、その中で EO を付けていない低 HLB のソルビタンエステルは本成分だけである。同じクラスタの油剤トリエチルヘキサノインも、同じ商品の26位に入っている。
4.2 並びから読めること・読めないこと
読めるのは、本成分が「親水性の乳化剤を複数含む水系の製品に、親油側の乳化剤として1つだけ加わっている」という構成までである。花王ケミカルが説明する「親水性の界面活性剤と組み合わせて O/W 乳化にも使う」という使い方と矛盾しない配置といえる(出典: 花王ケミカル)。
読めないことも多い。
- 配合量: 化粧品の全成分表示は、配合量1%以下の成分を順不同で書ける。30位という位置から配合量%は推定できない
- 粉体との関係: 本成分は粉体の直前に並ぶが、1%以下の成分が順不同で並ぶ範囲では、隣接は役割のつながりの根拠にならない。本成分が粉体の分散を担っていると断定する一次資料は、この商品については確認していない
- 役割分担: 6つの乳化・分散成分のどれがどの界面を受け持つかは、成分表からは分からない
製品のさらさらした使用感や白濁した見た目は、粉体・油剤・複数の乳化剤・増粘剤を合わせた処方全体の結果である。本成分1つの有無で使用感や安定性を評価することはできない。
5. 安全性・注意点
5.1 CIRの評価
米国の化粧品成分評価機関 CIR(Cosmetic Ingredient Review)は、1985年にソルビタンエステル7種の安全性評価をまとめており、本成分はその最初の7種に含まれている(出典: CIR 1985年報告 Elder RL のタイトル)。2019年には、1985年・2002年に評価した成分に新たな3種を加えた計20種のソルビタンエステルを再評価し、「現行の使用実態・濃度で化粧品に安全」と結論した(出典: CIR Fiume et al. 2019)。同報告は、これらの大半が化粧品で界面活性剤・乳化剤として機能するとしている。
二次情報の化粧品成分オンラインは、CIR の1985年報告などをもとに、皮膚刺激性は「ほとんどなし〜軽度」、眼刺激性は「ほとんどなし〜最小限」、感作性は「ほとんどなし」と整理している(出典: 化粧品成分オンライン〔二次〕)。日本では医薬部外品原料規格2021に各条がある(出典: 医薬部外品原料規格2021)。
本成分は酸化エチレンを付加していないため、ポリソルベート類や PEG 系の成分で論点になる1,4-ジオキサン(エトキシ化の副生成物)は、製法上の論点にならない。
5.2 皮膚科のパッチテストでの位置づけ
本成分には、化粧品とは別の場面での顔がある。皮膚科で接触皮膚炎(かぶれ)の原因を調べるパッチテストの試料に、乳化剤として入っていることである。
パッチテストでは、原因候補の物質を決まった濃度でワセリン(pet.)などに混ぜ、背中に貼って反応を見る。代表的な試料の「香料ミックスI(Fragrance mix I)」は、ワセリン中に8種の香料成分を各1.0%(計8.0%)含み、乳化剤としてセスキオレイン酸ソルビタンを5%含む(出典: Chemotechnique Diagnostics)。ドイツの研究グループは、香料ミックスIの個別香料の試料にも本成分が1%含まれると書いている(出典: Geier et al. 2015)。トルコの報告では、ペルーバルサム(Myroxylon pereirae)の試料も本成分を5%含むとされる(出典: Özkaya et al. 2022)。
ここで問題になるのは、本成分そのものにまれに反応する人がいることである。本成分20%ワセリン試料での陽性率は、調査によって次のように報告されている。
| 報告 | 対象 | 本成分への陽性率 |
|---|---|---|
| Bennike & Johansen 2016(デンマーク) | 2010〜2014年に連続してパッチテストを受けた湿疹患者4637人 | 0.2% |
| Sukakul et al. 2023(スウェーデン) | 2016〜2020年にパッチテストを受けた皮膚炎患者3539人 | 0.48%(疑陽性1.3%) |
| Özkaya et al. 2022(トルコ) | 1996〜2020年に連続してテストを受けた840人 | 0.6% |
| Geier et al. 2015(ドイツ) | 1998〜2013年に香料ミックスIの分解テストを受けた2952人 | 5.2% |
(出典: 各論文の抄録)
ドイツの調査は、香料ミックスIの詳しい検査に進んだ患者に絞った集団で、連続受診者の調査より高い値になっている。デンマークの報告は本成分を「まれな接触アレルギーの原因」と結論し、香料ミックスIと本成分を同時にテストすることを勧めている(出典: Bennike & Johansen 2016)。
論点は、香料ミックスIに陽性が出たとき、それが香料への反応なのか、乳化剤である本成分への反応なのかを見分けにくいことにある。ドイツの報告は、本成分に反応する人では個別の香料への陽性も多く、本成分の反応性が香料ミックスIの結果に大きく影響すると述べている(出典: Geier et al. 2015)。スウェーデンの報告は、本成分と香料ミックスIの両方に反応した人で明確な香料アレルゲンを特定できなかった例を挙げ、パッチテスト試料の乳化剤を変えることが望ましいと結論している(出典: Sukakul et al. 2023)。トルコの報告は、本成分を陰性対照として同時にテストすることを提案し、本成分の陽性が、交差反応する別の成分への反応の手がかりになりうることにも触れている(出典: Özkaya et al. 2022)。
これらの数字の読み方には注意が要る。対象はいずれも皮膚症状があって受診した患者で、試料の濃度は20%である。化粧品に配合される濃度で、一般の人がどれくらい反応するかを示す数字ではない。一方で、パッチテストで「香料アレルギー」と言われた経験がある人は、本成分への反応が混ざっていなかったかを、担当の皮膚科医に確認する価値がある。
5.3 化粧品・医薬部外品・医薬品での名前と規格
本成分は、使われる分野ごとに名前と規格が整っている。
| 分野 | 名前 | 根拠 |
|---|---|---|
| 化粧品(表示名称) | セスキオレイン酸ソルビタン | 化粧品の全成分表示・花王ケミカル製品情報 |
| 医薬部外品(表示名称) | セスキオレイン酸ソルビタン | 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版 連番1268(成分コード002228) |
| 医薬部外品(原料規格) | セスキオレイン酸ソルビタン | 医薬部外品原料規格2021 各条 |
| 医薬品(日本薬局方) | ソルビタンセスキオレイン酸エステル | 日本薬局方データベース |
| 国際(INCI) | Sorbitan Sesquioleate | CIR / 花王ケミカル |
化粧品と医薬部外品で表示名が同じ成分なので、化粧品か医薬部外品かで成分表の書き方が変わることはない。成分表示名称リストと医薬部外品原料規格2021の本質は同じ文言で、化粧品の表示名称とも1対1で対応している。日本薬局方の名前は語順が違うが、無水ソルビトールの水酸基の一部をオレイン酸でエステル化したモノエステルとジエステルという、同じ物質系を指している(出典: 日本薬局方データベース)。手元の成分表示名称リストは2008年版のため、現行版での収載は別に確認が必要である。
6. 相性の良い・悪い成分
6.1 併用される成分
親油側の乳化剤である本成分は、性格の違う乳化剤と組み合わせて使われることが多い。花王ケミカルは、親水性の界面活性剤との併用で O/W 乳化にも使えると説明している(出典: 花王ケミカル)。
配合例の化粧水(§4)では、ミリスチン酸ポリグリセリル-10やPEG-60水添ヒマシ油といった親水寄りのノニオン界面活性剤、リン脂質系の水添レシチンと同じ処方に入っている。つながれる油の側には、エステル油のトリエチルヘキサノイン、植物油のコメヌカ油、シリコーン油のジメチコンなどが並ぶ。粘度はカルボマーとキサンタンガムで整えられている。
同じソルビタン骨格の中では、親油側の本成分やオレイン酸ソルビタンと、親水側のポリソルベート類を組み合わせて HLB を合わせるのが乳化処方の定石である(§3.1)。
6.2 注意したい組合せ
化粧品処方で本成分と特に避けるべき組み合わせは、本稿で確認した一次資料では報告されていない。非イオン型のため、電荷を持つ成分とも同じ処方に入れやすい。
実用上の注意は、組み合わせよりも読み方にある。
- 乳化剤の数や HLB で製品を評価しない: 乳化剤が何種類入っているか、HLB がいくつかで、製品の使用感や肌への合い方は決まらない
- パッチテストの結果を持っている人: 香料ミックスIやペルーバルサムに陽性と言われた人は、本成分への反応が混ざっていないかを皮膚科で確認しておくと、避けるべき製品の範囲を広げすぎずに済む(§5.2)
- 製品で反応が出た場合: 使用を中止し、原因は本成分と決めつけず、香料・精油・防腐剤などを含む処方全体で考える。配合例の化粧水は精油やエタノールも含む
7. よくある質問(FAQ)
Q1. セスキオレイン酸ソルビタンはどんな働きをする成分ですか?
水と油をなじませる乳化剤です(出典: 花王ケミカル / CIR Fiume et al. 2019)。ソルビタンにオレイン酸が結合した非イオン界面活性剤で、花王ケミカルやCrodaの資料でHLB 3.7とされ、油になじみやすい側に位置します。単独では油が外側の W/O 乳化に向き、親水性の乳化剤と組み合わせると水が外側の製品にも使えます。肌に直接働きかける成分ではなく、製品の状態を保つ裏方です。
Q2. オレイン酸ソルビタンとは何が違いますか?
脂肪酸の付き方が違う別の成分です(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版)。オレイン酸ソルビタンは主にオレイン酸が1本付いたモノエステル、セスキオレイン酸ソルビタンはモノエステルとジエステルの混合で、平均するとソルビタン1にオレイン酸1.5の割合になります。「セスキ」は1.5を表す言葉です。Crodaの資料では、HLB はオレイン酸ソルビタンが4.3、本成分が3.7です(出典: Croda Pharma)。
Q3. 「セスキ」は1分子にオレイン酸が1.5本付いているという意味ですか?
いいえ。1本付いた分子と2本付いた分子が混ざっていて、平均すると約1.5になるという意味です。医薬部外品の成分表示名称リストは本質を「ジエステル及びモノエステルからなる」と書いています。原料によって組成には幅があり、HLB の値もメーカーによって異なります。
Q4. パッチテストの試料に入っていると聞きました。アレルギーを起こしやすい成分ですか?
皮膚科のパッチテストで使う香料ミックスIには、乳化剤として本成分が5%入っています(出典: Chemotechnique Diagnostics)。本成分20%の試料で調べた報告では、受診した皮膚炎患者での陽性率は0.2〜0.6%程度で、まれな接触アレルギーの原因とされています(出典: Bennike & Johansen 2016 / Sukakul et al. 2023 / Özkaya et al. 2022)。これは受診者を高濃度で調べた数字で、化粧品での反応率ではありません。CIR は化粧品での現行の使用について安全と結論しています(出典: CIR Fiume et al. 2019)。
Q5. パッチテストで香料アレルギーと言われました。この成分の入った化粧品は避けるべきですか?
判断は担当の皮膚科医に確認してください。香料ミックスIには本成分が含まれるため、香料ではなく本成分に反応していた可能性を検討する論点が、皮膚科の研究で議論されています(出典: Geier et al. 2015 / Sukakul et al. 2023)。本成分を単独でテストしたかどうかで、避けるべき成分の範囲が変わることがあります。
Q6. 界面活性剤なので、1,4-ジオキサンの心配はありますか?
本成分は酸化エチレンを付加していないため、エトキシ化の副生成物である1,4-ジオキサンは製法上の論点になりません。1,4-ジオキサンが話題になるのは、ポリソルベート80やオレイン酸PEG-6ソルビタンのように EO を付加した成分です。その場合も、成分自体の毒性ではなく製造管理の論点として扱われます。
8. まとめ
セスキオレイン酸ソルビタンは、ソルビタンとオレイン酸のモノエステルとジエステルの混合からなる非イオン界面活性剤で、化粧品と医薬部外品の表示名はどちらも「セスキオレイン酸ソルビタン」である。「セスキ」は脂肪酸が平均1.5の割合で付くことを表し、主にモノエステルのオレイン酸ソルビタンとは別の成分になる(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版)。
ソルビタン骨格の乳化剤を並べると、本成分は EO を付けない親油側に入り、花王ケミカルとCrodaの資料では HLB 3.7とされる(出典: 花王ケミカル / Croda Pharma)。二次情報では4.0や6.0とする原料もあり、値は原料によって幅がある。単独では W/O 乳化に向くが、親水性の乳化剤と組み合わせて水系の製品にも使われる。商品マスターで配合を確認できた化粧水1品でも、複数の親水寄りの乳化剤と並んで1行だけ入っていた。表示順から配合量や役割分担は読み取れず、使用感や安定性は処方全体で決まる。
安全性は、CIR が20種のソルビタンエステルを現行の使用で化粧品に安全と結論している(出典: CIR Fiume et al. 2019)。一方で本成分はパッチテスト試料の乳化剤でもあり、受診した皮膚炎患者の0.2〜0.6%程度が反応するまれな接触アレルゲンとして、香料アレルギーの判定に影響する論点が研究されている。成分表で見かけても過度に怖がる必要はなく、パッチテストの結果を持っている人だけ、皮膚科での確認を1つ足しておくとよい。